29: ◆L3c45GW7tE[saga]
2018/01/05(金) 23:02:38.69 ID:6rZ5mY140
六花……?
お前本当に大丈夫か!?って問いたくなるが、また同じ答えをされるだろう。黙るしかない。
とにかく久しぶりに声を聞けたのはうれしい。疎遠の崩壊にはならなさそうだ。
しばらく無言だった。静寂の夜が心地よかったのもあるが。だが無言だったのであまりにも苦痛だったゆえに「今日はデート遅刻してごめん」と真正面に謝ると、その表情で首を横に振られた。その不気味な光景から早く避けたい気持ちが渦巻く。
そして言うタイミングを失った。彼女が目の前にいるのにいつ喋りかけたらいいか、嫌われるのが確定事項だからなおさらだった。でも何もしないのも評価を落とす一方なのも分かってる。
じっと六花を見つめているが、内心その顔が怖くて威嚇してる気分を感じている。
言うか言わないか。優柔不断に待っている。すると目に飛び込んだ。六花の手が俺の裾を掴んだ。ゴスの裾から漏れた白い包帯の結び目も揺れている。そして唇が開き懐かしい声が吹き飛んできた。
六花「言いたい、ある?」
えっ?とまた質問された。
言いたいこと?ここで例の質問の解答しろってこと?なぜここで?
いや違うな。何かあったな。これは違うぞ。何か忘れている気がする……?俺は六花に……思い出した。
勇太「もしかして夕方の俺の言ったこと?」
そう言うと六花はゆっくりと、目を大きくして俺の方を見つめた。これは明らかに興味を示している!
勇太「でもここじゃ言えない」
六花「知ってる」
答えた!ちゃんと答えた!!俺の口元が緩み心の中で歓喜が舞っている。例のことの内容を理解している、それが俺にもわかっていた。少し昔の出来事も、ちゃんと覚えてくれたんだ。
でもなんで?何でこんなこと知っているんだよ。どうしろっていうんだよ。仮に、もし気分の喪失が原因なら、わざわざ話のために場所を変えて体力を消耗する方を選ばないはず。
……。ああ、お前も本気か。望んでいる。彼女は。今夜は戦争になりそうな日だな。
確認をしておこう。勇気をもって。勇太の勇は、勇気の勇!
勇太「お前体調的に本気か?気分は悪いか?」
六花「私は気にしないでほしい」
勇太「そうはいったって!」
六花「ゆうたは?」
心にグサッと刺さる。俺が最強だって思われてないかのように。六花からこの質問は想定外だった。まるで見透かされたように。いつもなら完全無視のくせに。思わず腕が心臓を防御した。戦術の変化に追いつかず戦場の流れ弾に当たってしまった。だけどその場合は敵兵を撃ち殺せばいいだけの話。
勇太「俺も気にしないでほしいな」
六花「そう」
勇太「はぁ……。長旅になるけど服着替えるか?」
六花「いい」
門限はごまかし限界最長でも9時だ。そして携帯で確認するに今は5時30分。
勇太「寒いだろ。汚いだろ。遠慮しなくていいぞ」
六花「いい」
声がおかしい。こんな波長じゃなかったはず。なんかこいつ、遠慮している気がする。
六花「ゆうた。これお気に入り」
勇太「……」
俺の不安に答えたのか、またはその顔を速攻潰したいのかよく分からない。この六花は不気味すぎる。何かでいっぱいになった代わりに、何かが欠けたような気分だ。
勇太「六花、分かっているよな。これから」
六花「……」
勇太「場所、好きなのあるか?」
六花「ううん」
それは明確なのかよ。
勇太「今からの、お前こういうのずっと夢に見ていると思う。俺だってそう思ってるって」
六花「……」
横目になった。どうやら無回答でいくということか。
勇太「何に乗りたい?フェリー?ジェット?宇宙船?」
六花「……」
その言葉を耳にすると不満げな顔で睨みつけた。
なんだよ。
勇太「じゃあ俺の考えた、自転車で行く?地味だけど」
六花「うん」
……。何でここは黙らないんだよ。
勇太「でもな〜。あそこはすごい場所だぞー。一般人でも入ったことは誰もいないっというおぞましい場所だ!こんなところを征服しに行くんだぜ俺たちすごいだろ!六花なら一発だろうがな!神聖な世界で闇の炎で目覚めた究極のドラゴンと戦おうぜ〜!」
六花「ちゃんと答えてよ!!!!!」
六花は怒鳴った。飛んだ唾が俺の顔を弾いた。拳をグーにして自身のスカートを叩くように。誰かに通報されるほどのそのけたたましい声がマンションに響き渡る。その見たことのない声と感情に目を丸くした。なんでだよ!お前こういうの好きだったろ!?
あ、っと六花は口を押えて、体を反らして向きを俺の方から逃げていく。
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