28: ◆L3c45GW7tE[saga]
2018/01/05(金) 23:01:46.72 ID:6rZ5mY140
勇太「着いたな」
六花「……」
勇太「今日は色々あったよな」
六花「……」
何もない。反応もない。腫れ物に触っている気分だ。
こんなの嫌なのに、
俺ならアニメでなら放っておくな助けに行け!って罵声浴びせているところなのに、
なんで同じ道を歩いているんだろう。なんで一言でないんだろう。
勇太「お家温かいな」
六花「……」
もう、ダメか。こんな掛け声にもされたことなんてない。暗い影が支配する中で、こんな隣で歩いている生きる気を感じない真っ暗の無機物な彼女だなんて嘘だと思う。怒ればそれだけ彼女を傷つけることになる。俺からの気遣いはすべて拒否されどうしようもない。このまま放置するのか。いや悲観するな、期日は高校3年生の終わるまである。その間に関係を修復できるチャンスはある……と思いたい。でも嫌な予感しかしないんだよな。もう手遅れかもしれない。過去に取り戻せない何かで躓いてもう手遅れだったりしてな。でもきっと奇跡が起こって……!自己満足なのはわかっているがそう祈るしかあるまい。優柔不断に波が移り俺の胃は荒れている。そう思いながらマンションの敷地内の自転車置き場を通り過ぎて、家の階段に一歩踏み入れる。強く、ダンッと。気落ちした状態でのその加重が嫌な意味で膝に痛みを増している。六花の笑顔……。これで明日以降持ち越しなんて嫌だ。
はぁ、どうしよう。この関係。
!
何かが起きた!
裾が後ろに伸びている。何かが引っかかったような。
俺は意味不明な理屈と知りながらためらいのない何かを感じ振り向いた。
薄暗いマンションの階段の下から、夜の明かりで輝いたブルーブラックのうすいもやに何かが引っかかった。
その先には……小さく伸びて俺の裾をつかみ取っていた。
それは紛れもなく。
六花が待っていた。
その瞳は太陽や月よりも強かった。
六花「……」
六花は無言だった。ただ俺の裾を2,3回、しかもわかるように大きく引っ張って、怒りも涙もなく無表情のまま俺の方を静かに見つめる。六花が、俺を必要としている……!六花が六花に勝とうと攻撃している!暗さが暗さじゃなかった。少しの世界の選択を見直せたような気がする。ここが運命の分岐点なんだって、俺にさえ分かるよ。
六花「……」
何をやるか。決まっているだろやることなんて。階段を一歩降りた後、夜空と化した空が見えるまで昇降口の外に出た。
夜の深淵の空の中でブルーに光る異端的な星がいくつか見えている。
その星と街頭の光からは遠いけれど、でもそのおかげで六花の顔の表情まで理解できた。
六花は裾を離した。だが無言だった。俺の返答を待っているらしい。この場合はあの答えじゃなくて、別の答えでもいいと俺の勘が推測している。
勇太「元気?」
そう尋ねると、六花に無表情とはちょっと違うオーラを感じた。
初めて、
笑っているようで、
笑っていないような顔で、
「元気」と答えられた。
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