8:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 17:34:36.58 ID:4sMggCAno
そこで幸子が最初に取り掛かったのは家事のお手伝いであった。
帰郷して二日目、幸子は夕飯の支度をしている祖母と母の元へ行き、意気揚々と「ボクも手伝いますよ!」と宣言した。
以前、とあるテレビ番組向けに特訓したこともあり、調理には自信があったのである。
9:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 17:35:53.45 ID:4sMggCAno
朝、祖母にやさしく揺り起こされて目が覚めた。
前日の夜、居間でぐっすり寝入っていた所を家族の誰かが布団の上まで運んだらしかった。
「もうじきラジオ体操始まるけ、さっちゃんも行くかえ?」
10:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 17:36:48.40 ID:4sMggCAno
ラジオ体操が終わる頃にはすでに額に汗が滲んでいた。
幸子は一息つきながら、空き地から人がまばらに去っていくのをどこか釈然としない気持ちで眺めていた。
釈然としない気持ちというのはつまり、「どうしてみんなアイドルの輿水幸子に気が付かないのか」という疑問である。
11:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 17:37:45.96 ID:4sMggCAno
家に帰ると母が起きてすでに朝食を用意していた。
幸子はまたもや自分が手伝いをする機会を逃したことを悔やんだが、代わりにまだ寝ている父親を叩き起こすという使命を与えられて喜んで寝室へ向かった。
哀れな父親は娘に馬乗りにされ、ほっぺをぐりぐり引っぱられ、終いには布団をひっくり返された挙句ようやく起き上がった。
12:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 17:38:30.85 ID:4sMggCAno
その後、幸子はしばらく休憩してから、地面に散らばった刈り草を集めて荷台まで運ぶ手伝いをした。
この作業もそれなりに大変だったが、刈られた草は日照で乾いて軽くなっていたので幸子ほどの体力があれば十分こなせる仕事であった。
一方祖父はさして疲れた様子も見せず黙々と草むしりを続けている。
13:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 17:39:49.16 ID:4sMggCAno
◇ ◇ ◇
昼過ぎ、陽が高くなって庭中に熱気がこもるようになると、風通しのいい屋敷もさすがに蒸し暑くなった。
14:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 17:40:50.05 ID:4sMggCAno
途中で駄菓子屋に寄ってアイスを買ってもらった。
祖母が店主のおばさんと話し込んでいるあいだ、幸子は軒下のベンチに座りアイスキャンディーをぺろぺろ舐めて涼んだ。
店の戸口に風鈴がぶら下がってちりんちりんと可愛らしく鳴っている。
幸子は、ただ日陰に座ってアイスを食べているだけなのに自分がとても贅沢なことをしている気がして楽しくなった。
15:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 17:41:33.42 ID:4sMggCAno
「雪美ちゃんひとりかい?」と祖母がやさしく尋ねた。
「うん……」
「なにか面白いことでもあったかいね?」
16:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 17:42:20.85 ID:4sMggCAno
幸子はせっかくなのでペロを探すのを手伝うことにした。
と言っても申し出たのは幸子の方からで、べつに雪美が頼んだわけではない。
単なる幸子のおせっかいである。
「道路に飛び出て車に轢かれたりしたらタイヘンですからね」
17:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 17:43:10.19 ID:4sMggCAno
「そういえばまだ名前を名乗ってませんでしたね」
幸子は神社の裏手にある茂みをガサガサと歩き進みながら自己紹介をした。
しかし雪美は何も答えず黙ったまま、幸子が蜘蛛の巣に驚いてひっくり返りそうになっているのをじっと眺めているだけである。
18:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 17:44:09.06 ID:4sMggCAno
……三〇分ほど探し回り、結局ペロは祖母の膝の上で丸まっていた所を発見された。
おみやさんの外まで探し回っていた二人が休憩がてら神社まで戻ってみると、そこで祖母とペロが仲良く昼寝していたのである。
灯台下暗し。
これにはさすがに幸子も徒労感にがっくりした。
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