輿水幸子「ボクのなつやすみ」
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13:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 17:39:49.16 ID:4sMggCAno

 ◇ ◇ ◇

昼過ぎ、陽が高くなって庭中に熱気がこもるようになると、風通しのいい屋敷もさすがに蒸し暑くなった。

幸子は扇風機に当たりながら畳に寝そべり『銀の匙』の続きを読んでいたが、こう暑いと集中力も途切れがちである。

やがて本を読むのに疲れると仰向けに寝転がって天井のシミを数え始めた。
すると不意に自分が小さかった頃の思い出が蘇ってきて、幸子はそのまま記憶の中の景色に没頭していった。
学校の思い出、アイドルになったばかりの頃の思い出、プロデューサーや事務所の友達との思い出、両親との思い出……

そんな風に幸子がじっと天井を見つめたまま動かないので、通りかかった祖母が心配して声をかけた。

「さっちゃんや、涼しいとこまで散歩しよか?」

幸子は横になったまま「行くー」と気の抜けた返事をした。


さて、外に出ても猛暑は猛暑である。

幸子は白のワンピースに麦わら帽子というこれ以上ないほど完璧なファッションに身を包んで散歩へ出かけた。
こういう時でもアイドルとしての振る舞いをきちんと意識するあたり、さすがプロである。
もちろん入念な日焼け止めも欠かさない。

「それで、どこに行くんですか?」

「川をのぼった先におみやさんがあるすけ、あすこは夏場でもひんやりして涼しいんよ」

おみやさんとはつまり神社のことである。

幸子は祖母といっしょに田舎の道をぽつぽつと歩いていった。
どこもかしこもまんべんなく緑である。
四方から草木と土の濃厚な香りが匂い立ち、時折それが強烈に鼻をかすめては風に消えた。

道すがら、珍しい花や虫や建物を見かけるたびに幸子は「おばあちゃん、あれ何?」と質問したが、セミの鳴き声があまりにうるさいのと祖母の耳が若干遠いのとで、しばしば大声を張り上げなければならないほどだった。
舗装されたコンクリートの道路は熱が反射して暑かったけれどもやがて山あいの道にさしかかると頭上を覆う樹木のおかげで陽が遮られていくらか涼しくなった。


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