198:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:24:51.84 ID:yoGsi3kr0
夕食が終わり風呂に入ったあと、私は久しぶりに明石中佐に夕食を届けにいくことにした。
ただ届けるだけじゃなく、中佐とお喋りしたいので、釣り道具を片手に桟橋で晩酌にしようと思ったのだ。
199:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:25:55.68 ID:yoGsi3kr0
「まぁ、猫が食べていけないものは拒否するようになっているだけですがね」
「それは、どういうこと……?」
「あれ、少佐にはまだ言ってませんでしたっけ? アカトゥルフの右目のこと」
200:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:26:49.10 ID:yoGsi3kr0
「この子、捨て猫だったんですよ。雨の日に呉鎮守府の裏口に捨ててあったのを、呉の明石少将が見つけたんです。かなり衰弱しており、しかも、右目が感染症にかかっていたのですよ。少将はすぐに海軍医大附属動物病院に連れていったそうですが、右目を摘出しなければ助からないと言われたそうです。命には代えられないと少将は子猫の右目の摘出手術を決断。その時に医者から、子猫を開発中であった眼球型AIコンピュータの被験体にさせてくれないかと頼まれたそうです」
中佐はそこで一旦言葉を切ると、持っていた朱霧島を二つのおちょぼに注いだ。中佐は一つを私に手渡す。私は小さく頭を下げて、それを飲んだ。
喉が熱い。隣の明石中佐は平気そうな顔で飲んでいる。整備士という仕事柄なのか、酒にはやはり強いようだ。
201:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:27:57.85 ID:yoGsi3kr0
「……アカトゥルフは手術後、リハビリを重ねながら、人間の眼球型AIコンピュータを開発するにあたって必要なデータを色々と採取されたようです。そして、それが終わると、漸く少将のもとへと返されたんですがね……」
そこで明石中佐はため息を吐いて、ワインを一口する。
「まぁ、命の恩人とはいえ、そんな危険な手術や開発実験に差し出した少将のことをアカトゥルフはよく思ってなかったらしく、なつかなかったんですよ。あと、そもそも、呉鎮守府は猫禁止ですし……」
202:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:29:07.15 ID:yoGsi3kr0
一年十カ月前……吹雪中佐が前任司令官とケッコンする一年前のことである。中佐に何かあったのだろうか。
「ちと辛いことって……?」
「まぁ、端的にいえば、大切な人を亡くしたんですよ」
「……それは艦娘……?」
203:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:30:31.95 ID:yoGsi3kr0
中佐は白波の少し立つ宇和の海を眺めながらそう言うと、吸っていた煙草を口から離した。その表情はすこし、不安そうにも見えた。
「中佐、本題というのは……」
「本題というほどのものじゃあないですよ。ただ、今夜は時化るかもしれないから、少佐は早く帰って中にいた方がいいと伝えたかっただけです」
204:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:31:12.78 ID:yoGsi3kr0
「――少佐、これからが少佐の手腕が試されるときです。色々あると思いますが、頑張ってください。私も応援してますから……」
明石中佐は私の背中をそっと押すように言う。私は振り返らずその場で小さく頷くと、その場をあとにしたのであった。
205:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:33:04.93 ID:yoGsi3kr0
司令室に帰ると時刻は既に二十一時五分前となっていた。
三階に昇るとき、二階の奥の部屋を見たが、五月雨や妹はいなかった。
206:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:33:55.41 ID:yoGsi3kr0
――と、その時だった。
机の上の簡易無線機がモールス信号を受信した。
これは…………救難信号ではないか!
207:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:34:41.07 ID:yoGsi3kr0
しかし、救難信号を受信している途中に、階下から悲鳴にもとれる五月雨の怒鳴り声が私の耳を突き刺した。
「だめええええええっっ!!! ぜったい、だめええええええっ!!!」
このタイミングで、明石中佐の懸念が的中してしまった……。最悪なタイミングだ。
208:名無しNIPPER
2017/09/21(木) 13:35:32.45 ID:yoGsi3kr0
「司令、来たんですね。北上さんを止めてください」
「……北上との約束なんだろ?」
「……」
214Res/213.95 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20