【艦これ】「泊地を継ぐもの」
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1:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 12:48:45.99 ID:5FDHqpH0O
はじめに:これは四国にある小さな泊地の後継者となった若者素人司令官の日誌をもとに描いた物語です。
つまり戦記みたいな日常みたいな感じです。
同型同艦の子は複数いる世界ですので、これキャラ違うなーとかそういうのはあります。だって、人間だもの。
とりあえず、電子記録として残すだけ残させて下さい。
ではでは……

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2:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 12:50:12.36 ID:5FDHqpH0O
「はじめまして、五月雨です! 司令官っ、これからよろしくおねがいします!!」
 どうやら私は司令官着任試験に晴れて合格したらしい。とはいっても、柱島泊地所属でしかも豊後水道にある名前も知らぬ離島の泊地の司令部に着任することになったのだが。
 艀から降りて桟橋に立つと、駆逐艦の五月雨が出迎えてくれた。彼女の背景には初夏の日差しを受けた木造の三階建ての司令部庁舎がいい趣で佇んでいた。これからこの司令部で長い司令生活が始まるのだ。


3:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 12:50:59.29 ID:5FDHqpH0O
「――司令官??」
「ああ、はじめまして」
 私は若干、頭を下げて女子高校生にしか思えない目の前の女子に対して挨拶する。この子がその艦娘なのか。間近に見るのは初めてである。
「ささっ、早速入りましょう!!」
 五月雨はそう言い、私に背を向ける。そして、足を踏み出す。あ、そこは桟橋の桁がないとこだ。
以下略 AAS



4:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 12:51:28.79 ID:5FDHqpH0O
「大丈夫かい? ちょっと擦りむいたようだけれど……」
「わっ! いえ、心配かけてごめんなさいっ、大丈夫です! でも、着替えてきますね!!」
「ああ」
 そう言うと、彼女ははやばやと司令部庁舎左隣の小さな入渠施設へと走っていった。
 では、私は一足先に司令部庁舎に入って荷物整理でもするか。
以下略 AAS



5:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 12:52:12.56 ID:5FDHqpH0O
 ああ、海は穏やかだ。しかし、ここは四国と九州に挟まれており、瀬戸内海の入り口とも言える場所であるから、要所とも言える。この近辺には良くイ級やら敵潜水艦やらが来るらしい。まぁ、あっさり彼らはやられる訳だが。
 それにしてもこの司令部は不思議だ。立会いの元で行われる前任者との引継ぎもないし、そもそも他の艦娘たちの姿も見当たらない。建物からして新しく新設された司令部、というわけでもないし……
「司令官? 司令官?」
「あ、ああ、君か……」
「ご、ごめんなさいっ! わたし、すっかり司令官に鍵を渡すのを忘れてました!」
以下略 AAS



6:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 12:52:59.99 ID:5FDHqpH0O
 正面玄関の扉を開けると、木目調の廊下と正面には上階に通ずる木製の古びた階段。すべて材質は木であり、しけた木の香りがした。
「今日からここが、司令官と私が暮らすとこです!」
 五月雨がそう言って、眼を輝かす。
「ということは、ここは指揮所や司令室だけでなく、艦娘が住む所や私が住むところもあるんだね」
「はいっ! 私は二階、司令は三階が住むところとなってます!」
以下略 AAS



7:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 12:54:22.74 ID:5FDHqpH0O
「ここが、今日から執務を行う部屋なんだな」
「ええ、司令官がお仕事するお部屋です」
 部屋の真ん中には執務用の設備が入ったダンボールが積まれていた。そして司令用の机と椅子は窓際に置いてあった。床は一部分において机や家具の移動によるものなのか擦れた跡がかなり残っている。そして、壁はところどころに拳大の染みや汚れが付着していた。正直、私が司令官候補生学校で使っていた宿舎の方が綺麗であった。窓からは先程いた桟橋とその先に広がる宇和の海が広がり、日振島などの島が浮かんでいる。眺めは悪くない。
「どうですか、司令官?? 気に入ってくださいましたか??」
「ああ。これから、五月雨先生に色々教わりながら司令官として執務をこなしていくと思うと気分が高翌揚するね」
以下略 AAS



8:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 12:55:42.73 ID:5FDHqpH0O
「――ところで、五月雨中尉、ひとつ質問いいかな?」
「あっ、はい! どうぞ!」
「この司令部の前任者のことなんだが、普通なら司令部を引き継ぐ時は両者の立会いの元で行うのが慣例というか決まりだが、前の司令官は今どこにいるのかい??」
 そう訊くと五月雨は一瞬、大きく目を見開いたように思えた。
「前の司令官のことは……」
以下略 AAS



9:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 12:56:44.42 ID:5FDHqpH0O
「分からないって……それじゃあ、君も何も聞いていないんだね」
「はい、それに私は艦娘ですから、司令の人事関係のことはよくわからないです」
「そうか……それならちょっと質問を変えるけど、前の司令官と共にここにいた艦娘たちの事とかは知っていたりしないかい?」
 その質問をすると五月雨は顔を曇らせて面倒だなという表情を一瞬したが、すぐに我に返ったかのように微笑んでみせた。
「それも私は分からないです。そもそも、私もつい昨日くらいに違う司令部からここに赴任して来たばかりですから。
以下略 AAS



10:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 12:57:19.81 ID:5FDHqpH0O
 微妙に五月雨の声のトーンが落ちたような気がした。
「ど、どうしたのかい? あんまり良い思い出じゃないとか、ブラック司令部とかだったのかな……」
「い、いえ! そんなんじゃありませんっ。いろいろあったなって……えへへ……」
 五月雨は苦笑いしてごまかす素振りをみせた。まぁ、辛い思いでもしたのだろう。近年は連日オリョクル、バシクルに連日東京急行といったブラックな事をする司令部も多いと聞く。私は、そんな事をするつもりはさらさらない。例え上官にきついノルマを課されても、私は艦娘にはできる範囲で無理をさせないつもりである。ノルマは仕事を半ば強制的にさせるために課すものであって、達成する為に設けているのではない。無理に達成してしまうと更に高度なノルマを課せられ、それがブラックへの道となる。もっとも、上官の昇進の材料をわざわざ部下が作る必要はないのだから、ノルマは軽く聞き流すのが丁度良い。


11:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 12:57:55.38 ID:5FDHqpH0O
「まぁ、私は新人だし、五月雨中尉も良い意味で上手く私を使ってくれると助かる。そうしたほうが、君にも私にもよいだろう」
「私が司令官を使う??」
「ああ、私は新人だから、君好みの司令官にしてもよいんだぞ」
 私はそう言って、笑ってみせる。
「えへへ、なんか恥ずかしいけど、嬉しいです。私、なんだかやる気がでてきました!」
以下略 AAS



12:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 12:58:32.86 ID:5FDHqpH0O
     
 その後、五月雨は私に指揮所の案内と私が寝泊りする寝室を紹介してくれた。そして一階の食堂も。しばらくは五月雨が作ってくれるというので楽しみだ。
「艦娘たちが住む部屋も見せて欲しいな」
「それは、秘密です!」
 いやいや、今見せても問題はないだろう。
以下略 AAS



13:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 12:59:23.38 ID:5FDHqpH0O
「こうやって見るとつい最近までいたんだなって思えるよ」
「……ですね。司令官もここを沢山の艦娘が居るようなとこにしたいですか?」
「いや、今のままでも私は別に構わないがね」
 そういうと五月雨はなんとなく嬉しそうな表情をした。
「でも、それじゃあ何のお仕事もできなくて私も司令官もぶーたろーです!」
以下略 AAS



14:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:00:03.87 ID:5FDHqpH0O

 夕方、私は夕飯を食べに食堂に入る。食堂と言ってもカウンタ席とテーブル席を合わせて十人入れるかどうかの小さな所だ。カウンタの奥では五月雨がトマトシチューを作っていた。
 ……って、量多くない!?
「今日はトマトシチューか。楽しみだよ」
「そう言ってくれて嬉しいです!」
以下略 AAS



15:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:00:46.97 ID:5FDHqpH0O
「こうみえても、私、お酒強いんです」
 一口飲んで、五月雨はそんなことを言ってみせる。ああかわいいな。
 トマトシチューの方は程よく甘く、私の口にあっていた。ドジだが五月雨の料理は美味しいと分かって私は安心したのであった。


16:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:01:28.24 ID:5FDHqpH0O

 夜、私は三階に備え付けてある司令用の普通の風呂に身体をつかった。だが、置いてあったシャンプーとコンディショナーは一髪であった。加えて洗顔料も専科であった。もしかしたら前任者は女性司令であったのだろうか。
 風呂を出ると、なんだか散歩に出たい気分になった。私は浴衣の格好で、司令部庁舎を出ると、桟橋に立ち、夜の宇和海を見渡した。おおよそ五、六海里先の戸島付近に三隻程の艦娘が夜間哨戒しているのが見えた。
 と、彼女らのサーチライトを照らす先が白く沸き立って水柱を上げているのがみえた。敵潜を轟沈したのだろうか。
 それから、私は少しして、庁舎に戻ろうとした。ふと庁舎横にならぶ小さな入渠施設と工廠を見た。……あれ。


17:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:01:56.30 ID:5FDHqpH0O
 工廠の明かりが薄ら点いているではないか。五月雨が艤装の整備でもしているのだろうか。そう思ったが、庁舎の五月雨がいる部屋の明かりもぼんやり点いていた。
 そんな訳で私は木造の小さな工廠へ向かい、扉を開ける。
――小学校の体育館のような広さの工廠には、整備されて薄明かりの中きれいにかがやく駆逐艦の艤装が三つクレーンに吊るされて並んでいるのが目にとまった。かたや、工廠の端にはスクラップ同然の艤装や開発品、武器みたいなものが散らかっている。その中にはペンギンの成り損ないみたいな物もいくつか転がっていた。


18:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:02:35.78 ID:5FDHqpH0O
「さみだ……ああ、貴方が噂の新人さんですかい」
 突然、右からハスキィボイスの女に呼びかけられ私は驚いた。あわてて右を振り返ると桃色の髪をしたこれまた艦娘のような女が立っていた。女はロシアンブルーを抱いていた。猫は私を睨むなり、にゃあと挨拶する。左目が青、右目が黄色のオッド・アイが特徴的な猫である。それから私は視線を女に移し口開く。
「君も艦娘かね?」
「ええ、『艦娘』ですよ。といっても、戦力にはならないですがね」
「となると、あなたが工作艦の明石ということかな」
以下略 AAS



19:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:03:17.10 ID:5FDHqpH0O
「それではなぜ、名簿にないのだ?」
「何故も何も、あなたは私の司令官ではないからに決まっているでしょう」
「となると、ここの前任者の所属ということか」
「ええ、そういうことになります。ただ、上官の命令でここに残ることになっているので、私はこれからあなたの命令を受けて開発、建造、整備、解体の仕事をすることにはなります。もちろん、あなたが海域突破報酬……俗に言うドロップで私をこの司令部に編入させる事が認められれば、あなたは晴れて私を指揮下に置く事ができますよ。それまでは、私はあなたから命令されても装備品の改修と出撃、演習、遠征等は行いません――」


20:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:04:26.29 ID:5FDHqpH0O
「なるほど。よく分かった。ということは、前任者の事を知っているわけだ。
 もしよかったら少し――」
「それはできません」
 明石は半ば私の言っている事を遮って断った。
「それはどういう訳かな?」
以下略 AAS



21:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:05:19.59 ID:5FDHqpH0O
「そういえば、今日の五月雨のトマトシチューは美味しかったですね。あなたはどうでした?」
 急に明石は話題を変えて、夕飯の話をはじめた。というか、明石も五月雨の夕飯を食べていたのか。通りで量が多く作られていた訳だ。ではなぜ、そう言わなかったのだろう。
「ああ、美味しかったよ。あと、ここでは司令官は一人だから私のことは司令と呼んでくれてもいいんだよ」
「いえ、あなたは私からすれば司令じゃないので……それにあなたは少佐でしょう?」
 鼻につくような言われかたをされ、少々私は苛立ちを覚えた。
以下略 AAS



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