二宮飛鳥「美波さんにボクの歌が歌えるわけがない」
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1:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 08:52:32.71 ID:jKZID4Vr0
・シンデレラガールズSS
・世界観の準拠は特にありません
よろしくお願いします
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2:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 08:53:18.48 ID:jKZID4Vr0
住む世界が違う。
飛鳥は美波を初めて見たとき、そう感じた。
新しくスカウトされた新田美波という人物は、容姿端麗、頭脳明晰、文武両道を地で行く人で、瞬く間にアイドルとしての実力をつけていった。
3:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 08:53:52.03 ID:jKZID4Vr0
確かに、クラスにも活動的で社交的な人物はいた。
しかし、美波はそれ以上だ。
驕ることなく、慢心することなく、人当たりがよく、愛嬌と色気がある。
4:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 08:54:28.50 ID:jKZID4Vr0
事務所のだだっ広い廊下に飛鳥のブーツの音が響く。
軽い運動は脳をほどよく活性化させるものであるが、それが明確な正解にたどり着けるとは限らず。
こうモヤモヤしたときは趣味である漫画に筆が乗るタイミングだ。
5:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 08:55:23.38 ID:jKZID4Vr0
神秘的なまでに透き通った白い肌と、それを覆う黒のゴスロリ服。
歩く度にしなやかに揺れる巻き髪。
長い睫毛に縁取られた深紅の瞳。
6:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 08:56:25.68 ID:jKZID4Vr0
それよりも、今は胸に蓄積された感情を共有したかった。
「今日の予定は空いているかい? また二人でお互いのセカイを語り合おうかと思ってね」
「魅力的な誘いではあるが、生憎、件の女神との契約がある」
7:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 08:57:01.50 ID:jKZID4Vr0
学校や街中では、アンニュイにも、不機嫌にも見える表情がデフォルトである。
しかし、蘭子の前では、格好良い『二宮飛鳥』でありたいと思っていた。
だから、感情が顔に出すぎないように、余裕を持っているような笑顔で押し込めた。
8:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 08:59:11.19 ID:jKZID4Vr0
「……!? 蘭子、何を……!?」
「くくく……これぞ白銀の妖精より受け継がれし技である! 言の葉より深く、魂で繋がる儀式であると!」
滑らかで、柔らかくて、温かい手だった。
9:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 09:00:46.90 ID:jKZID4Vr0
屋上に来れば少しは気分が晴れるかと思いきや、厚みと高さのある雲がそこかしこに散っていて空からの明かりを遮っていた。
初夏のぬるい風を受けながら、闇と光の境界線を眺める。
世界から取り残されたような雰囲気の中、屋上入り口の古びた扉が開く音がした。
10:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 09:01:26.99 ID:jKZID4Vr0
「今度のライブ、一緒に頑張ろうね」
「ああ」
飛鳥は生返事をして、上着のポケットに手を入れる。
11:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 09:02:18.00 ID:jKZID4Vr0
「歌う姿も、すごく格好良くて」
「そうか」
「この曲、とっても好きだよ。共感できる部分があるから」
12:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 09:03:17.25 ID:jKZID4Vr0
その感情は、独占欲と、そして、恐怖だった。
自分の居場所を、アイデンティティーを奪われる恐怖。
学芸会でお姫様の役になれないからと駄々をこねる子供のようなものだ。
13:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 09:03:51.54 ID:jKZID4Vr0
世間一般的に必要とされる、求められる存在は間違いなく美波だろう。
いくらマイノリティを気取っても、社会の枠組みからは逃れられない。
日常から外れた存在だとしても、他者がいるからこそ自分が観測される。
14:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 09:04:44.34 ID:jKZID4Vr0
その存在は、闇から覗くには、あまりに眩しすぎた。
そんな飛鳥の反応に、美波は眉尻を下げた。
「あ……ごめんなさい。失礼なことを言って」
15:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 09:05:38.93 ID:jKZID4Vr0
ポケットから手を出し、謝罪の意を伝える。
「ごめん、美波さん……こちらこそ、言い過ぎた。本当にすまない」
プロデューサーが「飛鳥と美波で話してみればわかる」と言っていたのを思い出した。
16:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 09:06:54.70 ID:jKZID4Vr0
少しの押し問答の末、美波はゆっくりと話し出す。
「私も、実は不安なことばかりで」
あんまり、そう見えないってよく言われちゃうんだけどねと、困ったように笑った。
17:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 09:08:39.16 ID:jKZID4Vr0
「私、実は飛鳥ちゃんに憧れてるんだ」
「え……?」
「飛鳥ちゃんは私と違って強いから、自分というものを持っているでしょう? だから、周囲に合わせたりしなくても、生きていける」
18:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 09:10:09.48 ID:jKZID4Vr0
どうすればいい。
お互いに一歩、踏み寄ればいいのに、きっとそれは簡単でとても難しいこと。
考えあぐねていたそのとき、親友の顔が頭に浮かんだ。
19:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 09:11:14.17 ID:jKZID4Vr0
「でもそれは……ボクも同じだよ」
先程、飛鳥が蘭子と接したときと同じだ。
格好良く見られたい、良く思われたい。
20:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 09:20:07.98 ID:jKZID4Vr0
もしガラスの檻から引き擦り出そうとするのであれば、傷つくときは一緒だ。
「だから、嘘が得意な美波さんに、敢えて言おう。キミはアイドルに何を求める?」
ならば、自分の持ちうる全てでぶつかろう。
21:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 09:20:56.99 ID:jKZID4Vr0
「心の奥底に、隠しているんだろう? 熱くなれるものを! 青くて痛い、等身大の衝動を! だったら、声を上げるんだ! このボクに、キミの声を聞かせろ!」
美波は気圧されるように視線を逸らす。
そして、意を決したように深く細い息を吐いて、顔を上げ、力強く手を握り返した。
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