557: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:37:38.02 ID:oL93h30zO
子どもたちの遊び場なのだから、人の住む場所の近くにあるのが当然だ。アナスタシアは不安になる。いまはまだ夜で、人のすがたはなく、たまに自転車のホイールの回転する音や自動車の走行が聞こえるくらいだけど、朝になれば子どもたちが公園に遊びにくる、母親あるいは父親もいっしょについてくる、人であふれるほど立派な公園ではないけれど、午前十時くらいにはやっぱりだれかがやってきて、遊具にかけより、すべったりゆれたりする、そのうちドームにやってきて、ゆるやかな曲面をのぼり天辺に立って公園を征服した気分になる子どももいるだろうが穴を通ってドームの内側に入ってくる子どももいて、そしてそこでアーニャを見つけてびっくりする。
見つけたのは亜人だから。
558: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:38:59.83 ID:oL93h30zO
自転車の走行音がまた聞こえる。スピードはそれほど出てなく、タイヤがアスファルトを擦る音がやたら大きく響いた。角を曲がったときに鳴るあの特有の音だ。おそらく、公園ちかくに停車したのだろう。ドアが開き、閉められる音がたてつづけにして、だれかが公園へ入ってきた。
アナスタシアは緊張で心臓をバクバクさせながら、トイレによっただけ、と思い込もうとした。身体を縮こまらせ、呼吸をとめて、気配を消そうと力んだ。
559: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:40:49.79 ID:oL93h30zO
顔にむかって光が投げかけられた。瞳に光線がまともにぶつかり、アナスタシアは反射的にまぶたをとじた。光が眼に滲みる。ぎゅっと搾るようにまぶたを閉じたので、まぶたの裏側の血流を感じた。
ドームを覗きこんだ人物は光源をさげ、トイレを捜索しているもうひとりの男に向かって叫んだ。
560: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:41:56.51 ID:oL93h30zO
アナスタシアは頭を下げながらゆっくりと外へ出てきた。中野はいっそう強くうちわをあおいだので、銀色の前髪が持ちあがり、額やまぶたをくすぐった。ふらつきながら立ち上がると、喉と胃の訴えがふたたび強くなってきた。
中野「永井、飲み物三つな!」
561: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:43:46.73 ID:oL93h30zO
永井はあきらめたようにうなだれた。永井の右手には五〇〇ミリリットルのコーラのペットボトルが一本あるだけだった。
中野「おれらの分は?」
562: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:44:49.33 ID:oL93h30zO
中野「で、これからどうする? まずはアーニャちゃんを家に帰さなきゃなんないよな」
出し抜けに中野の声が耳に届き、アナスタシアは顔をあげた。「えっ」という困惑の声が送りつけられた涼風に跳ね返される。風が鼻腔を通っていく。中野はうちわを左手に持ちかえていた。アナスタシアが考えに耽っているあいだも、うちわをあおぎつづけてくれたので、アナスタシアの額の汗はすっかり引っ込んでいた。
563: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:46:08.58 ID:oL93h30zO
中野「いや、アーニャちゃんが亜人だってのはわかってるよ。でも、居酒屋で亜人の話になったときもそんな話は全然なかったぜ」
永井「ていうか、こいつの正体ばらしてないし」
564: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:47:23.02 ID:oL93h30zO
アナスタシア「アーニャのおサイフ!」
永井はとくに驚いた様子をみせなかったが、大声には顔をしかめた。財布がアナスタシアに投げ返される。中を確かめると、わずかに硬貨が残されているだけで紙幣が一枚もなかった。
565: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:48:37.36 ID:oL93h30zO
永井と中野はふたりして呆然としていた。アナスタシアが鼻と口を手でおおって上を向いたとき、永井は文句をぶつけようとアナスタシアに一歩詰め寄った。
公園に盛大な腹の音がたっぷり五秒間響いた。
566: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:50:07.93 ID:oL93h30zO
永井「中野、車まで連れてってやって……」
永井はなにもかも諦めたかのように両手で顔をおおった。
567: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:52:06.22 ID:oL93h30zO
永井「あー、もう!」
さすがの永井もついに大声をあげた。いそいで車まで走っていく。助手席に乗り込むと、ドアを乱暴に閉める。
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