新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
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53: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/28(土) 22:41:03.21 ID:8ENUCYV1O

戸崎「わかりました。では聴取のあと、簡単にですが助言いたしましょう」

美城「ありがとうございます。では、聴取が終わった後、社の者に会議室まで案内させます」

以下略 AAS



54: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/28(土) 22:42:25.62 ID:8ENUCYV1O

美波の様子は弟の安否を心配する気持ちはあったが、自分にはそれだけしかないことも理解しているといったふうだった。苦しみによって意志を挫かれた人間の様子にふさわしく、美波もなにも求めていなかった。求めても求めても、なにも得ることはできないと美波はこの数時間で知り尽くしてしまっていた。


戸崎「新田美波さんですね?」
以下略 AAS



55: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/28(土) 22:44:00.12 ID:8ENUCYV1O

隔離と管理。聴取の合間合間に美波が弟が見つかった後のことについて、答えに詰まる警官たちにくい下がって聞くことができたのは、かれらが口ごもりながら言ったこの二語だけだった。亜人と発覚した者は国の施設に収容され、研究協力が求められる。それ以上のことを警官たちはけっして口にしなかった。

美波は喚きたくなった。そんなことはだれもが知ってることじゃない。わたしが知りたいのは“わたしたちのその後”のことであって、あなたたちがどうするかではないのだ、と。家族が追い立てられ、追い詰められようとしているのに、あなたたちはわたしに協力を要請してくる。何の保証もないまま。もし弟を捕らえた人間がいたら、あなたたちはその人に懸賞金を支払うというのか?……

以下略 AAS



56: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/28(土) 22:45:22.93 ID:8ENUCYV1O

専門家の意見が一般のそれと相違するのはよくあることで、意見の正当性にではなく相違があることそれ自体に文句がつけられるのも同じくらいの頻度で存在する。そのため専門家はそういった文句の受け流し方や対処の仕方を多少なりとも身につけていたりするのだが、今回の場合、警察は専門家とはいえなかった。なぜなら、亜人が発生したのは十年ぶりの出来事なのだから。

深刻な病状の患者に事実を伝えるのは経験を積んだ医師ではなくてはならないのに、その役目を不条理にも警官が任されてしまった。美波が問いかけてくるたびに、巡査部長はそんなふうに思わざるをえなかった。

以下略 AAS



57: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/28(土) 22:46:33.43 ID:8ENUCYV1O

美波「あの、でも、刑事さんにはもう話をしたんですけれど」


美波は多少警戒しながら言った。眼にもどってきた光に失望を与えたくなかったし、そうなった瞬間の暗闇を戸崎に見られたくなかった。
以下略 AAS



58: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/28(土) 22:48:06.65 ID:8ENUCYV1O

美波は既視感のある問いかけにたいして、さきほど巡査部長から質問をされたときとおなじように記憶を探ってみた。二回目の質問だったせいか、海斗のことがより鮮明に頭に浮かんできた。そして妹の病室を訪れた陰鬱な冬の日のことが連想され、かれではないのだろうという否定的な思いがいっそう強くなった。


美波「いえ、やっぱり心当たりはありません」
以下略 AAS



59: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/28(土) 22:49:59.89 ID:8ENUCYV1O

記憶を総ざらいにして巡査部長や戸崎からの質問の答えを導き出そうとしたのは、彼らの関心、永井圭は現在どこにいて、これからどうするのかという疑問の答えを美波自身がなによりも欲していたからだった。記憶の細部が見えるように画像や映像のかたちで蘇らせ、脳内でズームやスロー再生などの処理を施し情報を得ようとする。思い出をキャビネットのようにひっくり返し、瑣末な会話の切れ端から弟がどんなことに興味があり、どこで遊んでいたかだれと楽しさを共有していたのかを探り当てようと必死になる。その結果わかったのは、そこにはーー美波の記憶、思い出にはーー答えが存在しないということだった。

壁にかかっている時計の針の音が驚くほど大きく部屋に響いた。時刻はすでに二十三時を過ぎていて、白く光る天井の灯りに照らされている美波の身体が事態の発生時点から現在進行で緊張と疲労を積み重ねていた。そのせいで眼のまわりの皮膚が張り、痛みを訴えていた。このままでは眠るというより意識が切断されるということになりかねない状態だったが、美波にそれを感じ取れるだけの余裕はなく、この危機をどのように脱するかという問題に全神経を集中した。問題は内面的なものだけにとどまらなかった。姉である自分から弟についてたいした情報が得られないことが悟られてしまったら、戸崎は形式的な質問だけ行って聴取を早々と切り上げてしまうだろう。そうなってしまえば、弟がいたとう事実そのものが、朝の目覚めが夢を奪うようにきえていってしまう気がした。

以下略 AAS



60: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/28(土) 22:51:07.83 ID:8ENUCYV1O

美波「あの、亜人管理委員会とはどんな組織なんでしょうか? 警察の方に聞いてもよくわからなくて」


美波は不安の種類を個人的なものから一般的なものにみせようと努めながら質問した。その成果があるのかどうかを判断するには、美波はまだ混乱のなかに居すぎていた。
以下略 AAS



61: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/28(土) 22:52:28.25 ID:8ENUCYV1O

戸崎「これは亜人の安全の守るための措置です。十七年前にアフリカで初めて亜人が発見されて以降、世界各地でも発見されるようになった亜人に対して各国政府はその対応を早急に決定しなければなりませんでした。あらゆる分野において重大な研究価値を持つ亜人を違法な売買目的で捕獲しようとする、いわゆる“亜人狩り”が横行するようになったからです。これは亜人の発見率が高いアフリカや中東などの紛争地域にかぎらず、先進国においても報告されている事態なのです。それを専門とする職業的な密猟者や他国の工作員が亜人捕獲のために活動を開始していると考慮しなければなりません。ご自分が国家レベルの案件に関わっていることをどうかご理解していただきたい」

美波「懸賞金のことはどうなっているんですか? ニュースを見るたびに、その話が毎回といっていいほど出てくるんですよ?」

以下略 AAS



62: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/28(土) 22:53:44.15 ID:8ENUCYV1O

美波「でも、ニュースでは……」

戸崎「公的報奨金の支給はいっさいありません。亜人は犯罪者ではありませんから」

以下略 AAS



63: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/28(土) 22:56:24.52 ID:8ENUCYV1O

空調が咳き込んだような音を出した。戸崎はその音を耳障りに思ったのかいったん言葉を切り、首をすこし傾け天井を見上げた。美波は戸崎が話を再開するのを待った。必死に。意識を耳に集中しているのに、時計の針の音や空調がごうごう鳴る音はどういうわけか聞こえなかった。


戸崎「厚生労働省のホームページにも記載されていることですが、一般人はおろかマスメディアの人間もこのことをほとんど知らない。公的機関による情報公開の限界を感じますよ」
以下略 AAS



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