53: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/28(土) 22:41:03.21 ID:8ENUCYV1O
戸崎「わかりました。では聴取のあと、簡単にですが助言いたしましょう」
美城「ありがとうございます。では、聴取が終わった後、社の者に会議室まで案内させます」
プロデューサーはすれ違うとき、何かを言いたげに戸崎にむかって顔を向けた。戸崎の仕事に弱々しい思いやりは必要なかったから彼はそれを無視し、美波が待機している応接室へとはいっていった。
まず戸崎の目に入ったのはシックな黒のマガジンラックだった。芸能情報誌やテレビマガジンが各種取り揃えて並べてあり、そのなかの多くがこのプロダクションに所属しているアイドルたちなのだろう。誰もかれもが笑顔だった。中央部に美城プロダクションのエンブレムが輝くマガジンラックの隣には、観葉植物が鮮やかな緑色をしていて、空調が葉をかるく揺すっている。大きな葉を持つ植物は黒で統一されている調度品と好ましい対照を示していた。
戸崎はすぐに視線をおとし、永井圭の姉がソファに一人、消えかけているような儚さで座っているのを認めた。戸崎が美波のまえに腰をおろす。美波は目を伏せたまま戸崎に顔を合わせず、あわせた膝のうえで重ねるようにして置いてある拳にぼんやり虚無的に視線を落としていた。握りしめた拳の指の先だけが赤く、それ以外の関節は白くなっていた。
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