506: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/12/22(金) 23:12:22.59 ID:OBzab0O/O
堀口「ははっ」
堀口が笑い声をあげた。目の前の若造はひ弱そうにみえて、取り入りかたををよくわかっている。ほかの老人たちも緊張を解くのにうってつけのタイミングでうってつけの飲み物が差し出されたことに喜んで腰を上げた。
507: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/12/22(金) 23:13:41.24 ID:OBzab0O/O
北さんと呼ばれた長い白髪を後ろに撫で付けた肉付きのいいその老人は、猟銃の先を永井の背中の穴に向け、老人たちの視線をそこにうながした。
細かい孔が密集している背中の銃創から、黒い粒子が泉の水のように湧き出し(といっても、老人たちにその粒子は見えなかった。IBM粒子は亜人にしか見えない)、永井の傷を癒していく。
508: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/12/22(金) 23:14:59.36 ID:OBzab0O/O
「ひいいいぃッ! 亜人!!」
北「化け物め!」
509: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/12/22(金) 23:16:32.76 ID:OBzab0O/O
堀口「あいつ……騙してやがったのか」
堀口は茫然とした面持ちをして言った。
510: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/12/22(金) 23:19:05.08 ID:OBzab0O/O
玄関の戸がガラッと音をたてながら開けられたので、山中のおばあちゃんがその方向に眼をやった。村の顔役たちが集まる集会場に出かけていった永井が慌てた様子で、疾走でもしてきたのか、汗まみれになりながら急いで玄関の鍵を閉めているところだった。
山中「あ、圭君、どうだった?」
511: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/12/22(金) 23:20:18.76 ID:OBzab0O/O
山中のおばあちゃんは騒がしく鳴っている玄関へと向かう途中、土のついた足跡が廊下に残されていることに気がついた。おばあちゃんは雑巾を取ってくる暇も惜しんで廊下に膝をつくと、服の裾を使って足跡を拭き取り始めた。
戸を叩く音はさっきよりも増して、いよいよ打ち壊そうとするかのように激しくなっている。
512: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/12/22(金) 23:21:26.93 ID:OBzab0O/O
北「村の出口は二ヶ所、橋と林道だ! 残ったやつは森を探すぞ!」
北が飛ばした指示に従って村人たちはそれぞれの武器を握り駆け出していった。
513: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/12/22(金) 23:23:47.66 ID:OBzab0O/O
一台のバンがかなりのスピードで杉の木が道の両端に並ぶ林道を走り抜けていった。平凡な夏の日によく見る光景だったが、タイヤが巻き上げる土埃の勢いは運転手が急いでいることを物語っていた。
運転手は頬がこけた老人で、出っ張った頬骨の上には眼鏡のつるがあり、車体の揺れにあわせてレンズに反射する光が上下していた。
514: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/12/22(金) 23:25:27.28 ID:OBzab0O/O
だが、永井がその姿勢でいられたのは、束の間のことだった。
老人「私が責任をもって安全な場所まで連れていくよ」
515: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/12/22(金) 23:28:22.35 ID:OBzab0O/O
永井は運転席の老人をとっとと見捨てることにした。永井の腕が獲物に飛びかかる蛇みたいにハンドルめがけて伸び、林道から真っ直ぐ空をめざす一本の樹木めがけて限界までハンドルを切った。正面にのびる林道から樹々が集まる森の景色へと老人の視界に写るものが一瞬で移り変わる。老人は悲鳴をあげながら必死でハンドルを元に戻そうとするが、永井は身体を運転席に乗りだし、老人のハンドル操作と視認の邪魔をする。そして、壊れたシートベルトを腕に巻き付け衝突に備える。
永井がフロントガラスにめり込んだ額を引き抜いたとき、日は傾きはじめ、林道は橙と黄色に輝く夕陽に染まり、林道から森へ曲線を描く轍に黒い影がかかっていた。
516: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/12/22(金) 23:29:58.79 ID:OBzab0O/O
『彼らは人を殺したとしても、何も感じたりはしません』
『例外なく、すべての亜人が危険だということを、国民一人一人が認識すべきだったのです』
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