337: ◆yyODYISLaQDh[sage]
2017/02/23(木) 20:53:40.16 ID:V014Qou/O
ジュウが物心ついたころから、こういう母親なのだ、この女は。
物凄く優しい母親のようなことをしたかと思えば、次の瞬間には急に無関心になったり、唐突に暴力的になったりもする。
好きか嫌いかと聞かれれば、苦手と言うのが一番しっくりくる。
そもそも滅多にこの家には帰ってこないし、どこか他所で男と暮らしているらしい。
子どもの頃はこんな紅香にも母親らしさを期待していたジュウだったが、現在ではただの目の上のタンコブだ。
338: ◆yyODYISLaQDh[sage]
2017/02/23(木) 20:54:22.66 ID:V014Qou/O
「そういえば、あのガールフレンドとはどこまでいったんだ?」
「げほぉっ!?」
339: ◆yyODYISLaQDh[sage]
2017/02/23(木) 20:54:59.28 ID:V014Qou/O
悲鳴を上げそうになるのをどうにか堪えた、と言うのが本当のところだ。
なぜなら、そこに堕花雨がいたからである。
「お邪魔しております」
340: ◆yyODYISLaQDh[sage]
2017/02/23(木) 20:55:30.54 ID:V014Qou/O
大きく溜息を吐いてから、ジュウは雨に向き直る。
「それで、なんか用か?」
「正午を過ぎてもご連絡が無かったので、御身の無事の確認をと」
341: ◆yyODYISLaQDh[sage]
2017/02/23(木) 20:56:14.96 ID:V014Qou/O
「もう限界だ。止めよう、こんなこと」
前髪を乱暴に掻きながら、ジュウは勢いよく椅子に座る。
顔を天井に向けて、自分の不満を溜息と同時に吐き出す。
342: ◆yyODYISLaQDh[sage]
2017/02/23(木) 20:56:57.84 ID:V014Qou/O
全身を硬直させて、人形のように白い肌がどんどん赤く染まっていくのがわかる。
ジュウにとってそんな雨の反応は非常にレアだった。
そして、今日の雨の格好も。
少し丈の大きいニット地のセーターに、スキニージーンズを履いている。
セーターの白と黒い髪が対照的でよく映える。
343: ◆yyODYISLaQDh[sage]
2017/02/23(木) 20:57:42.64 ID:V014Qou/O
「いいと思うぞ。そういう格好も」
ジュウは気まずい沈黙が嫌で、思ったことをそのまま口にしてみた。
しかし、口にしてからなんとなく気恥ずかしくなり、ジュウは照れ隠しに前髪を乱暴に掻いた。
雨は何かを堪えるように唇を引き締めて、何も言わない。
344: ◆yyODYISLaQDh[sage]
2017/02/23(木) 20:58:13.64 ID:V014Qou/O
白い肌。小柄で華奢な体躯。鼻の頭まで隠れるほど前髪の長い綺麗な黒髪。そしてその前髪の奥に隠されている美しい双眸。
あの瞳を前髪越しでない間近で見たのはいつ以来だろうか。
「ジュウ様?」
345: ◆yyODYISLaQDh[sage]
2017/02/23(木) 20:58:39.55 ID:V014Qou/O
「定期連絡はもう必要ないんじゃないか。あれからもう暫く経つし、そんなに危険に晒されることもしょっちゅう起きるわけじゃない」
「私はジュウ様の騎士です。ジュウ様の安全を確認する義務があります」
当然のように電波を発信してくる雨。
346: ◆yyODYISLaQDh[sage]
2017/02/23(木) 20:59:09.70 ID:V014Qou/O
「――――」
そこには、再び顔を赤くしたまま立ち尽くす雨がいた。
耳どころか首まで真っ赤に染め上げて硬直している。
今日の雨は本当に変だ。
347: ◆yyODYISLaQDh[sage]
2017/02/23(木) 21:00:03.28 ID:V014Qou/O
雨の声で現実に引き戻される。
見遣れば、雨は顔を俯けたままバッグの持ち手を強く握りしめている。
思えば、このバッグも初めて見るものだ。
雨と言えば基本的にいつも制服姿で、バックも通学カバンぐらいしか見たことはなかった。
華美な装飾も無く落ち着いた色のバッグは、今日の服装も相まって雨によく似合っていた。
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