344: ◆yyODYISLaQDh[sage]
2017/02/23(木) 20:58:13.64 ID:V014Qou/O
白い肌。小柄で華奢な体躯。鼻の頭まで隠れるほど前髪の長い綺麗な黒髪。そしてその前髪の奥に隠されている美しい双眸。
あの瞳を前髪越しでない間近で見たのはいつ以来だろうか。
「ジュウ様?」
「――え?」
名前を呼ばれて、ジュウは湯呑を片手に立ったまま雨を眺めていたことに漸く気が付いた。
途端に顔が熱くなる。
ジュウはそのことを隠すように片手で顔を覆って椅子に座ると、何かを吐き出すように深呼吸をした。
……最近の自分は、本当にどうかしている。
「ジュウ様、大丈夫ですか?」
雨の心配気な声が聞こえる。
ジュウは、なんでもない、と短く応え、雨もそれ以上の追求はしてこなかった。
ジュウにはそれが心地よかった。
踏み込み過ぎず、かと言って突き放すわけでもない。
雨のその絶妙な距離の取り方は、ジュウにとって居心地のいいものだった。
まさに従者か侍女か、或いは――
「――さっきの話だが」
ジュウは咄嗟に思考を打ち切って、話を切り出した。
この思考は危ない、と本能的に察知して、鍵と鎖をがんじがらめにして心の奥底に押し込む。
なぜそうしたのかはわからない。
しかしジュウの中にある何かがそうさせた。
ともかくジュウはそれについて考えることの一切を放棄して、話を続ける。
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