【シャニマス】ゼンマイリピート 七草にちか
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10:吹き矢[sage saga]
2023/04/07(金) 15:14:44.89 ID:laNpeqI/0
『お疲れ様です。無事、イベントは終わり、放クラの皆んなを送り届けました。あれから、にちかの容態はいかがでしょうか』18:23 既読
 返事はなかった。不在だった際のメールや連絡をチェックする。
『再三のご連絡失礼します。容態が心配です。ご返事をいただけますと幸いです』20:16 既読
 返事がない。書類整理と報告書の作成。経費計算などを行った。
『書類整理を終えたので、明日の朝、時間を作り、にちかの見舞いに行きたいと思います。病院と部屋を教えていただけますでしょうか』23:27 既読
以下略 AAS



11:吹き矢[sage saga]
2023/04/07(金) 15:15:12.47 ID:laNpeqI/0
地下駐車場に車を停め、関係者口より手続きをする。既に社長が手回しをしてくれていたようで、思っていたより手続きはスムーズだった。
 受付を済ませ、入院病棟まで歩いていると病院特有の清潔感と薬品の匂いが鼻をついた。
 院内の空調が暑いのか、はたまた自分の熱が上がっているからか、やけに汗が出てくる。羽織っていたジャケットを脱ぎ、手に持つ。袖をまくり、ネクタイを緩めてようやく涼しさを感じた。
 入院病棟で自動扉を通ると、すぐにナースステーションがあった。朝の書類を整理しているのか、受付の前に立っても妙齢の看護師はこちらには気付いてはいなかった。
「あの……七草、にちかさんの病室は」と声をかけると、看護師はじろりと目だけを上げて、こちらを見てきた。そして、首から吊るした、受付でもらった許可証を見ると「ああ、はい。連絡にあった方ですね。今、案内させますので」と一人の看護師を呼びつけた。
以下略 AAS



12:吹き矢[sage saga]
2023/04/07(金) 15:15:40.72 ID:laNpeqI/0
「なん、て?」
 違和感。沈む。深く。
 手をついたにちかのベッドに、強い違和感を感じた。
 にちかの下半身を覆うベッドの掛け布団に身を乗せているのだ。そこに乗せている手のひらで感じているものが、やけに柔らかい。手が体の重みでやけに沈む。
 本来ならば、そこにあるべき質感、固さ、柔らかさが、無い。
以下略 AAS



13:吹き矢[sage saga]
2023/04/07(金) 15:16:09.79 ID:laNpeqI/0
何も返せなかった。自身に恨み辛みをぶつけてスッキリするならばそれが一番だと居座るつもりだったが、彼女が流した僅かな涙に、心の奥底まで自分には救えないと思い知らされたのだ。
 俺はただただ黙って、にちかに一礼をした。
 深く深く、深く。
 長く長く、長く。
 できればこのまま、贖罪のまま時が止まればと願うほどに。
以下略 AAS



14:吹き矢[sage saga]
2023/04/07(金) 15:16:38.32 ID:laNpeqI/0
 次の日。美琴とは事務所にて待ち合わせをした。
「おはよう、美琴」「うん、おはよう」とだけがにちかの病室に着くまでの間に美琴と交わした会話だった。
 最早自ら何か声をかけることができなくなっていた。美琴がどう思っているのか、今の俺にはわからなかった。
 病室内は静寂としていた。
 じっとにちかを見つめる美琴。
以下略 AAS



15:吹き矢[sage saga]
2023/04/07(金) 15:17:09.13 ID:laNpeqI/0
それから毎日とはいかなかったが、二日に一度は必ずにちかの元を伺った。行ける時は週六度ほど、同日に二回行ったこともあった。
 はづきさんは断らず、にちかも口では何も言わなかった。
 いつも彼女は笑顔を浮かべて、1時間ほど俺が一方的に話すだけ。だが、だからといって何かが改善するわけじゃなかった。
 にちかの脚が生えるわけでもない。彼女がアイドル引退を撤回するわけでもない。
 ただ、ただにちかが居なくなるのが嫌だから、居なくなってないのを確認するためだけの訪問だった。
以下略 AAS



16:吹き矢[sage saga]
2023/04/07(金) 15:17:40.06 ID:laNpeqI/0
いいや、違う。
 俺はただ諦めているだけだ。
 いつかにちかの心が変わるかも、なんてありもしない未来を望んでいるだけだ。
 臆病な狂信者だ。
 俺は誰だ? 何者なんだ?
以下略 AAS



17:吹き矢[sage saga]
2023/04/07(金) 15:18:08.66 ID:laNpeqI/0
何度も通っているうちに看護師の中で俺の顔を知らない者は居なくなった。ご苦労様ですと労いの言葉ををかける者もいた。
 今日はいつもよりも大きな荷物を持ってきた。肩から下げたトートバッグは時折持つ腕を変えなければ辛くなってしまう。
 いつもならば、開けるのを躊躇う病室の扉も今日ばかりは少しも重みを感じなかった。
「おはよう、にちか」
 朝食を済ませたにちかは、はづきさんが暇つぶしにと持ってきた雑誌を読んでいた。
以下略 AAS



18:吹き矢[sage saga]
2023/04/07(金) 15:18:36.13 ID:laNpeqI/0
その日は書類整理が忙しい日だった。SHHisが空けた穴を埋めるように、多忙になった283プロの皆んなの仕事が増えれば増えるほど、やらねばならないことは必然的に増えていた。
 デスクに向かってPCのキーボードを叩く。目が霞む感覚はあるが、それでも体はよく動く。
「プロデューサー。少し、いいかな」
 PCの向こう側から美琴が声をかけてきた。
「ああ、いいぞ。どうした」
以下略 AAS



19:吹き矢[sage saga]
2023/04/07(金) 15:19:21.13 ID:laNpeqI/0
「そん、な……そんなの」
 美琴は諦めている。にちかはそれを疑わないでいた。きっと自分のような、未熟者が更に半端になってしまえば美琴の足手まといになってしまうと思っていた。だからこそ、美琴の言葉に涙を流していた。
「社長にはグロテスクだと言われたよ。あまりにも無謀で、にちかのことを何も考えていないんじゃないかと。けど……俺はこのままにちかにさよならで終わりだなんてしたくない」
「確かに、これまでのようなダンスは踊れない。けどにちかが最初にアイドルを始めた時だって、一からダンスを学んだじゃないか。踊ることには変わらない。もう一度……もちろん出来ることには差がある。また覚え直すのは辛いかもしれない。けれど」
「100人に見せて、100人が受け入れてくれる、とは俺も思ってない……。ひどい言葉をかけてくる様な人も、いるかもしれない。だから、全ての責任は俺に投げればいい。そのためのプロデューサーなんだ。そのための俺だから。にちかは……にちかが輝けるように用意するのが俺なんだ——それに、諦めてほしくないのは俺と美琴だけじゃない」
以下略 AAS



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