15:吹き矢[sage saga]
2023/04/07(金) 15:17:09.13 ID:laNpeqI/0
それから毎日とはいかなかったが、二日に一度は必ずにちかの元を伺った。行ける時は週六度ほど、同日に二回行ったこともあった。
はづきさんは断らず、にちかも口では何も言わなかった。
いつも彼女は笑顔を浮かべて、1時間ほど俺が一方的に話すだけ。だが、だからといって何かが改善するわけじゃなかった。
にちかの脚が生えるわけでもない。彼女がアイドル引退を撤回するわけでもない。
ただ、ただにちかが居なくなるのが嫌だから、居なくなってないのを確認するためだけの訪問だった。
俺は睡眠をしなくても平気になっていた。食事も一日一食でも腹が鳴らない。頭は常にクリアーに澄んでいて、なんだかハイになっていた。
283プロの皆んなや社長は俺を見ていつも「大丈夫?」と尋ねてくる。
俺は決まって「大丈夫」と答えた。目のクマが深くなっても、少し頬が痩けても、俺は「大丈夫だから」と答えた。
なぜなら283プロの皆んなをより輝かせるための企画や繋がりをどんどん作れていたからだ。
遠方へは社長が代行してくれたが、近辺でのロケや打ち合わせでは付き添った。その度に先方からは「いやぁ、素晴らしい案です」と褒めちぎられた。だから大丈夫だ。
“ですがSHHisのことは………”
余計な雑音が時折会話に混じるのだけは納得がいかなかった。
283プロ全体で、CDの売り上げチャートは数ランクも上がった。週一度の小さいものだがラジオ番組をもてたユニットもいる。
これも全部今の自分の冴えた頭があったから、アイドルたちが頑張ったから。
世間にはSHHisは七草にちかの怪我により一時的に休業と公表した。
どこから漏れたのか、にちかは事故にあったのだとか、2度とアイドルはできないのだとか、SNSでは騒ぎになっていた。そんなことはないのに。にちかは辞めちゃいないのに。
世間ではSHHisは一過性の、一発屋のような人気でしかなかったと言うものまで現れた。
彼女たちの頑張りが、輝きが、馬鹿にされているようで腹が立った。許せなかった。何より、このままにちかという存在が忘れられてしまうのが怖かった。街先で聞けば、「ああ、いたね」なんて言われてしまうのが恐ろしかった。
なのに、にちかをアイドルに戻す案だけが浮かばない。
使えない脳みそにシャワーで熱湯をかけても改善はない。
使えない頭にSHHisの曲を大音量で響かせても何も浮かばない。
決して諦めているわけではないのに。どうしてここまで。使えないのか。
それは本当ににちかが望んでいるからだと理解してしまっているからじゃないのだろうか。プロデューサーとしてにちかを理解しているからこそ、彼女の想いを分かっているからこそ。
俺は彼女を——七草にちかを。
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