【シャニマス】ゼンマイリピート 七草にちか
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14:吹き矢[sage saga]
2023/04/07(金) 15:16:38.32 ID:laNpeqI/0
 次の日。美琴とは事務所にて待ち合わせをした。
「おはよう、美琴」「うん、おはよう」とだけがにちかの病室に着くまでの間に美琴と交わした会話だった。
 最早自ら何か声をかけることができなくなっていた。美琴がどう思っているのか、今の俺にはわからなかった。
 病室内は静寂としていた。
 じっとにちかを見つめる美琴。
 美琴の目を見れず、顔を伏せたままのにちか。
 そんな二人をただ半歩下がった場所で見るだけの自分。
 そんな状態が数分間は続いていた。
 沈黙を破ったのは美琴だった。
「にちかちゃん」
 にちかは返事をしなかった。
「アイドル辞める、て連絡くれたけど、あれって本当?」
 にちかは顔を逸らした。
「……そう。SHHisのライブ、諦めるの?」
 にちかは小さく頷いた。
「そう」
 それだけだった。美琴は優しくにちかの足を隠す布団を撫でると「プロデューサー、先に車で待ってるから。……あと戻ってくる前に水を買ってほしいかな、レッスンに行くから」とだけ言い残して、スタスタと病室を出て行った。
 それから部屋に残った俺とにちかは、何も言葉を交わさなかった。昨日の今日。どんな言葉をかけるべきなのか、俺にはまだ推し量れなかった。
 決してこっちを見ようとはしないにちかを、ただただ見ているだけ。それが十分以上は続いていた。
「早く、出て行ってくださいよ」
「ああ……。また、来るから」
 もう来ないで。とは言われなかった。それだけでも嬉しかった。
 帰りでははづきには出会わなかった。わざわざ時間をずらしているのかもしれないが。
 途中、自販機を横目にした時、美琴から水を頼まれていたことを思い出した。特に銘柄を聞いていなかったので、一番容量の多い物を買った。
 地下駐車場では既に美琴が自車の扉の前で立ち尽くしていた。しまった、鍵を渡してあげればよかった。
 彼女は腕を組んで、扉の前でぼぅと下を俯いていた。
「美琴、待たせてすまない。これ、水……」
「うん……ありがとう」
 美琴は水を受け取ると、かきっと蓋を開けた。
 俺はてっきり喉が渇いたのかと思ったが、美琴は一切の躊躇いもなく、中身の水を全て頭からざばりと被ったのだ。
「み、美琴!?」
「ごめん。少し……浴びたかったから」
 そう言う美琴の目は、少し赤みを帯びていた。
 嗚呼。
 俺は黙って先に車内の扉を開けると、ストックしているタオルを何枚か取り出し、美琴に渡した。
「……すまん、美琴」
 美琴は受け取ったタオルで体や頭を拭きながら、小さく笑った。
「なんで謝るの」
 美琴は座席にタオルを何枚か敷き、さっと腰掛けた。
「レッスン、いいかな」
「ああ」
 俺も運転席に座り、車のエンジンをかける。地下駐車場を出ようとした時、美琴は何かを思ったのか「あ、」と口にした。
「ライブ」
「え?」
「ダンスのパフォーマンス、変えた方がいいのかな」
 そういった時の美琴の表情は運転席から見えなかった。
 この席は、彼女たちからどれだけ遠いんだ。


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