【シャニマス】ゼンマイリピート 七草にちか
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12:吹き矢[sage saga]
2023/04/07(金) 15:15:40.72 ID:laNpeqI/0
「なん、て?」
 違和感。沈む。深く。
 手をついたにちかのベッドに、強い違和感を感じた。
 にちかの下半身を覆うベッドの掛け布団に身を乗せているのだ。そこに乗せている手のひらで感じているものが、やけに柔らかい。手が体の重みでやけに沈む。
 本来ならば、そこにあるべき質感、固さ、柔らかさが、無い。
「あ、あ…………あっ!?」
 嫌に頭が冴え巡っていた。見なくても何故かを理解した。
「にちか、まさか」
 何も、無い。
「ああ、あ、にちか!」
 あるのは、掛け布団だけ。
「無いのか、にちかッ」
 にちかの左脚は、そこには無かった。
 思わずベッドから手を離す。自分の手のひらを見つめて、今手を置いていた場所を見て、自分の重みで窪んだ布団を見た。
 見て、現実を知った。
 全身が脱力していき、ベッドの手すりに手をかけ、そのままへたり込んでしまった。
 言葉が何も出ない。ぐらぐらと思考は揺らぐばかりで一向にまとまりをみせない。悔しさと悲しさと怒りで強く噛んだ下唇からは血が滲んでいた。
 そんな姿を、にちかはただただ黙って見ているだけだった。それを許してくれていた。
 だがそんな折、やっと腹から出た言葉はあまりにも残酷だった。
「で、も……辞めなくても、いいんじゃない、のか」
 七草にちかを失いたくない。そんなプロデューサーとして、つい溢してしまった願いだった。
 ハッと我に返り、見上げると、にちかは何も言わず、ただ自分の言葉を受け止め微笑んでいた。
 苦痛と絶望に染まった笑顔であった。
 彼女はあともう一押しでもしてしまえば、心の防波堤は瓦解し、ぽろぽろと涙を溢してしまいそうだった。
 そんな強い感情で押し留めた、脆い笑顔だった。
「これで、良かったんじゃないですか……?」悲哀に染まりかけている笑顔を浮かべたまま、にちかは言った。
「もともと、私なんてアイドル擬きみたいなものだったんですし。運良くラッキーが続いて、デビュー出来て、美琴さんとSHHisが出来て、色んなことが出来て……ただの女の子が、たまたまだけで経験できたにしては、良い方じゃないですかー……。私」
 何を言ってるんだ。
「あ、もしかしてSHHisの心配ですか? そうですよね、ライブ……中止ですもんねー。本当にすみません……。でも、でもー! 美琴さんには悪いことしたなーとは思うんですけどー、私より上手い人なんてごまんといるじゃないですかー。だから、次の人となら、もっと……凄いSHHisになるんじゃないですかね!」
 やめてくれ、にちか。
「あー……あーあ! あーーあ! 私、ほんっっと馬ッ鹿みたいにはしゃいじゃってましたよねー! アイドルだー、SHHisだーて……」
 悪いのは、俺なんだ。にちか。
「こんな、またこんな思いするぐらいなら…………アイドルになんて——「にちか!!」
 それだけは言ってほしくなかった。強い怒りの感情を乗せて、立ち上がり言葉を遮った。
 しかしそれ以上は何も出てこなかった。
 それはにちかも分かっていた。これ以上何も言葉が出てこない俺を見て、可哀想さへの慈悲を込めて「いいんです……いいんです」とだけ繰り返していた。
 苦し紛れの抵抗も虚しかった。にちかの悲しみを塗り替えれるほどの魔法を、俺は今持ち合わせていなかった。
 これ以上はお互いがお互いを苦しめるだけ、現実を知ったのだから今はその悲しみを知ってほしい。にちかはそんな思いで、
「帰って……くれませんか。私、このままだときっと、プロデューサーさんに酷いこと言いそうなので」と願った。


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