【シャニマス】ゼンマイリピート 七草にちか
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11:吹き矢[sage saga]
2023/04/07(金) 15:15:12.47 ID:laNpeqI/0
地下駐車場に車を停め、関係者口より手続きをする。既に社長が手回しをしてくれていたようで、思っていたより手続きはスムーズだった。
 受付を済ませ、入院病棟まで歩いていると病院特有の清潔感と薬品の匂いが鼻をついた。
 院内の空調が暑いのか、はたまた自分の熱が上がっているからか、やけに汗が出てくる。羽織っていたジャケットを脱ぎ、手に持つ。袖をまくり、ネクタイを緩めてようやく涼しさを感じた。
 入院病棟で自動扉を通ると、すぐにナースステーションがあった。朝の書類を整理しているのか、受付の前に立っても妙齢の看護師はこちらには気付いてはいなかった。
「あの……七草、にちかさんの病室は」と声をかけると、看護師はじろりと目だけを上げて、こちらを見てきた。そして、首から吊るした、受付でもらった許可証を見ると「ああ、はい。連絡にあった方ですね。今、案内させますので」と一人の看護師を呼びつけた。
 自分よりは十ほど歳上と思えるベテラン看護師は「こちらです」と慣れた口調で自分を病室へ案内した。
 にちかの病室は東棟の一番奥だった。個室だ。社長が自ら院長へお願いしたらしい。旧知の仲である社長だからこそ出来たことだろう。
「では、こちらで」と看護師は病室の手前で案内を終え、踵を返してナースステーションへと戻っていく。
 俺はというといざ病室に入ると思うと、今更ながら怖くなった。最悪が思い浮かぶばかりで、心臓の鼓動が辺りに鳴り響いてるんじゃないかというぐらいに強く跳ねていた。
 扉の取手にまでは手が伸びるが、そこから引くことができない。あまりにも重く、自分では引いているはずなのに、一ミリも動いてはいなかった。
「えーー!? それってやばくないですかー?」
 すると病室からにちかが笑う声が聞こえた。中にいる誰かと談笑をしているのか、とても明るく、何も変わりはないようだった。彼女の笑い声が自分の背中を強く押した。
(ほら、ほら! 俺の思い過ごしだ、心配のしすぎだ)
 扉を開いた。
「にちか、おはよう」
 手を挙げて、満面の笑みを見せた。
「うわー、朝から元気過ぎません? 有り余った分、分けて欲しいですー」
 そう、そんな具合に、返事をしてくれる。なんならヨレヨレの服や、乱れた髪を見て、あれやこれやと弄ってくるだろう。そう思っていた。
「プロ、デューサー……さん?」
 にちかの反応は予想だにしてないものだった。
「じゃあ七草さん、私はこれで。何かあったらまたコールしてください」室内にいた看護師が慌てた様子で部屋から出ていく。
 あれ? おかしい。にちか? どうしたんだ。いつもの、いつもみたいに。
「何、しにきたんですか……」
「何、て……。お見舞い、に」
 上げた手を降ろす。笑顔を崩して、瞑っていた目をゆったりと開ける。
 にちかはベッドから上体だけを起こしていた。見える部分では包帯などは巻いておらず、怪我は少ないようだ。声も変わりはない。顔も少しのガーゼはあったが、微傷だろう。
 俺はにちかの側に座ろうとすると、「あの! あの、近づかないで、もらえますか!? プ、プロデューサーさん……入ってませんよね! お風呂!」と制止させられる。
 そんなに臭っているのだろうか。せめて車内で脱臭をしておけばよかった。
「す、すまん。急いでいたから、入れなくって——「あの! 私! …………私。」
 にちかが自分の言葉を遮ってまで口にした言葉は、信じ難いものだった。
「私、アイドル辞めますんで」
 
 
 衝撃が全身を何十に駆け巡る。何百万Vという電撃で脳髄の奥まで麻痺したのか、言葉が何も出てこない。
 あ、う、あ。何語かも分からないものを絞りに絞って、ついに出た言葉は「お、面白くない冗談、じゃないか」だった。
「あ、あはは。やっぱりプロデューサーさんって! バカなんですねー! こんなこと……こんな冗談、言うわけないじゃないですかー……あ、はは」
 にちかは顔を落とした。作り笑顔はとても不自然で、にちかの声からは一切の喜びという感情を抜き取られたようだった。
 どさっ。手から荷物が滑り落ちた。彼女の言葉が真実だとようやく心に突き刺さった。
 止められない衝動が体を巡った。だっだっと勢いよく歩を進め、にちかのベッドにまで詰め寄った。
「な! なんで! なんで、辞める、なんて…………」


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