【シャニマス】ゼンマイリピート 七草にちか
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18:吹き矢[sage saga]
2023/04/07(金) 15:18:36.13 ID:laNpeqI/0
その日は書類整理が忙しい日だった。SHHisが空けた穴を埋めるように、多忙になった283プロの皆んなの仕事が増えれば増えるほど、やらねばならないことは必然的に増えていた。
 デスクに向かってPCのキーボードを叩く。目が霞む感覚はあるが、それでも体はよく動く。
「プロデューサー。少し、いいかな」
 PCの向こう側から美琴が声をかけてきた。
「ああ、いいぞ。どうした」
 俺はPCの画面から目を離して、美琴の方を向いた。
 美琴はジャージを着ていた。レッスン用の物だ。
 お世辞にも美琴はトークやロケが上手いとは言えなかった。何事にも生真面目に真正面に受け止めてしまうから、にちかが居ない今、SHHis緋田美琴はほとんどスケジュールが空いている状況だった。それでも彼女は凹むことなく、レッスンに明け暮れ自身を磨いていた。
 今日もレッスンをこれから行う予定だったはずだ。レッスン室の鍵は渡していたと思うが、何か用があったのだろうか。
「にちかちゃんについてだけど」
 突然の話に、一瞬身が強張った。もしかしたらの可能性だけで、自分の脳内に留めていた話を、ついに美琴自身が切り出したのかと思った。
「あ、ああ、にちか、な。うん、分かってる……分かってるよ。でも、もう少し待ってくれないか。にちかだってきっとアイドルを続けたいんだ。SHHisを辞めたいわけがないんだ。ただ、まだ整理はついてなくて。だから、その……美琴のこれからについてはもう少しだけ待って——」
「? どうして待つの」
 美琴は不思議そうな顔をしていた。俺の言葉一つ一つをうまく理解できてないのか、困ったようにも見えた。
「どうして、て……だって、美琴はSHHisだろ。にちかだってSHHisで……」
「うん、それは分かってる。なんで私に待ってなんてお願いするの?」
「それは……それ、は」
 うまく言葉が作れない。美琴のためを思えば、今ここで彼女を強くアプローチする必要がある。だが、にちかの居ないSHHis美琴、なんて……SHHisなのか。エゴだろうが、我儘だろうか。
「私は、待つつもりはないよ」
「ッ! そうだ、そうだよな……美琴のことを思えば、そうだよな」
 にちかと美琴は仲が良いように見えていた。見えていただけだったのか。
「美琴の言う通りだ。言う通りだけど……! にちかが居ないのをそこまで簡単に——」
「? ううん。私はただ待つつもりはないよ」
「え」
「次のライブは期間的に無理でも、その次までには私とにちかちゃんのパフォーマンスを考え直さないといけないでしょ。違う?」
「いや、だって」
「……私は死んでもアイドルになりたい。それは変わらない。——けど、今の私はSHHisだから。283プロの、SHHis緋田美琴だから」
「SHHisは一人じゃない。SHHisの七草にちかと一緒……それが二人での"She,s"。私がSHHisである限り、にちかちゃんもSHHisだから」
 美琴は諦めてはいなかった。いや、はなからそんなことで悩んではいなかった。
 にちかが戻ってくるのは必然で、彼女との新しいパフォーマンスをこの期間を使って考えたいと言っているのだ。
「だけど……にちかは」
 だが彼女本人はどうなのだろうか。
 美琴と同じ思いなのだろうか。
「どうして。にちかちゃん。プロデューサーがお見舞いに来るの、嫌がってないんでしょ」
「あ、ああ」
「それって、もう答えじゃないかと思うの」
 嗚呼。すとんと悩みが落ち切った感覚があった。
 俺は恥ずかしくなった。自分の愚かさに。
 美琴をちゃんと見ていなかったこと。
 にちかを信じきれていなかったこと。
 彼女たちの強い絆を知らなかったこと。
 美琴の言葉が、彼女が信じるにちかの存在が、俺を拒まないにちかの想いが。
「ああ……ああ! そうだな、美琴。ありがとう——ありがとう、アイドルでいてくれて」
「ううん、いいよ。私もアイドル、やりたいから」
「少し用事ができそうなんだ。レッスン室には一人で行けそうか?」
「ふふ、大丈夫。何度も行ってるから。今度、にちかちゃんとのダンス、一緒に考えてくれる?」
「ああ……ああ! ただ、無茶だけはしないでくれよ」
「うん、体調管理だね。お互い様」
 確かに。今の自分には美琴を叱責する権利はない。まともな思考はおおよそできてないだろう。
「そうだな」と後ろ髪を掻いて恥じらいを誤魔化した。
「まずは寝るよ。そのあと食事をして……それで、大丈夫。絶対に」
「うん、そうだね。きっとそれが良いと思うの」
 俺は美琴に改めてスケジュールを復唱させ、時間を守ることを念頭におかせた。そして帰りにはタクシーを使っていいから必ず一人では帰らないことと強く約束させた。
 そこからはデスクに置いていた資料やらノートパソコンやらを選別もせず、鞄に押し込め、急いで自車へと向かった。
 そして、まずは美琴に言われた通り、睡眠をとった。椅子を倒し、ベッドのように伸ばして、しっかりと睡眠をとった。
 起きた時には陽が落ち始めていた。ぐぅと腹が鳴るので、車を飛ばしがてら、食事を摂った。久々の油は胃に応えた。
 そこからは早かった。すぐさまに義肢工場に向かい、案を話し、にちかを史上初の義肢アイドルとして、もう一度魔法をかけることを誓った。


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