41: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:18:53.01 ID:Sev9O2YP0
「今日は、みんなに謝らなくちゃいけない」
客席を見回し、彼女は続ける。
「私は本当はキモいやつで、だから、当たり前なんだけど、誰からも、距離を置かれてて・・・
42: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:20:09.28 ID:Sev9O2YP0
それは、怒り。
自身に対する怒り。メタルを、キノコを、幸子ちゃんを、小梅ちゃんを、今日ここに来てくれたみんなを裏切った、
どうしようもなく下種な自分。
それは、悲しみ。
43: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:21:21.14 ID:Sev9O2YP0
客席で、男性客が何かを叫んでいた。
スタッフに襲われる中、輝子は形だけの抵抗として、マイクを体の中心に抑え込む。
抑え込みながら、男性客の声を聞いた。
彼は。大きく口を開いて、叫んだ。
44: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:22:37.34 ID:Sev9O2YP0
「やっと、やっと!!」
離れたところから声が聞こえた。
そこを見ると、やはり見覚えのある顔があった。
45: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:23:26.82 ID:Sev9O2YP0
暫しの間唖然としていたスタッフが我に返る。
これ以上好きにさせてはならない。そう思い、スタッフは彼女に覆い被さるように突っ込んだ。
輝子はスタッフと揉みあった。絶対に取られまいと、マイクを胸に抱えた。
やがてなかなか彼女を止められないスタッフは痺れを切らし、苛立ちのまま思い切り彼女を突き飛ばした。
彼女は足をもつれさせ、そのまま倒れる。
46: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:24:22.14 ID:Sev9O2YP0
「お前、やりやがったな。みんなを裏切ったな。可愛いお前が好きなみんなを騙して、
よくもまあこんなバカみたいな事をしでかしたよな。本当に気持ち悪い。本当に……」
『それ』は、輝子に手を伸ばし……
47: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:25:15.56 ID:Sev9O2YP0
彼女は立ち上がった。
倒れた時に打ったのか、鼻血が出ていた。
手の甲で血を拭う。当然綺麗に拭き取れる筈もなく、顔に薄く血のメイクが広がった。
彼女は、大きく息を吸った。
48: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:26:13.32 ID:Sev9O2YP0
やがて全ての力を使い果たし、崩れ落ちるように座り込んだ。
それでようやく、観客も、スタッフも、彼女のライブが終わった事を悟った。
「なあ、夏は好きか?」
49: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:27:10.00 ID:Sev9O2YP0
「なあ、私の事は好きか?」
問うような口調だったが、返事を聞く前に彼女は語り続けた。
「言われた事があるんだ。お前は気持ち悪い、メタルは気持ち悪いって」
50: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:28:37.93 ID:Sev9O2YP0
力を出し尽くし満身創痍の彼女はふらふらと控室へ歩く。
控室への扉を開こうとドアノブに手をかけた時。
ドタドタと慌ただしい足音が聞こえてきた。
なんだろう、そうぼんやりと思い足音の方向を見ると。
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