49: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:27:10.00 ID:Sev9O2YP0
「なあ、私の事は好きか?」
問うような口調だったが、返事を聞く前に彼女は語り続けた。
「言われた事があるんだ。お前は気持ち悪い、メタルは気持ち悪いって」
「でも、今なら思うよ」
ひと呼吸おき、彼女は口を開いた。
「ざまァーーみろ!!ってな!!」
不意に大きく叫び、観客が驚いたようにざわついた。
息を大きく吸い、客席に指をさす。
「そこのメガネ!そこのドクロTシャツ!お前またそのシャツか!!」
「お前も、お前もお前もお前も!!」
観客一人一人を睨み付けるように辺りを見回し、輝子は叫び続ける。
「そして、今日!!私を好きになったやつ!こんな気持ち悪い私を好きになった、救えねえぼっちども!!」
客席にいる、誰かが震えた。
独りぼっちだった誰かが震えた。
今日確かに心動かされた誰かが、彼女をただじっと見つめた。
「お前らと私の為に、叫んでやる!私が闘ってやる!この気持ち悪い私が!!」
「安心しろ!こんな気持ち悪い趣味、リア充は触らねえ!!誰も取らねえ!!」
「そして密かに笑ってやればいい。こんな気持ち悪いものの良さが分からないなんて、
なんて、可哀想なんだってな!!一緒に、バカ笑ってやろうぜ!!」
そう言うと彼女はゆっくり腰を上げ、客席に背を向けて歩き出す。
「今日はありがとう。ごめんな」
そう言いながら、彼女はステージを去った。
よろよろと歩く彼女の背に、観客の数に対して異常なほど少ない、だが、力強い拍手が送られた。
それは彼女の姿が消えても、ずっと鳴り止まなかった。
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