46: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:24:22.14 ID:Sev9O2YP0
「お前、やりやがったな。みんなを裏切ったな。可愛いお前が好きなみんなを騙して、
よくもまあこんなバカみたいな事をしでかしたよな。本当に気持ち悪い。本当に……」
『それ』は、輝子に手を伸ばし……
──ぽんぽんと、優しく頭を叩いた。
「よく、やってくれたな」
優しい顔だった。やっと、認められた。褒める事ができた。
「二度とアイドルが出来なくなりたかった?破滅願望?違うよな。お前は……」
「お前は、メタルが最高にカッコ良い音楽だって、みんなに知って欲しかったんだよな」
「お前は、メタルを裏切ってなかったな。多分キノコも裏切ってないよな。
お前はメタルもキノコも、幸子ちゃんも小梅ちゃんも、親友も、ファンのみんなも、みんな大好きなんだよな」
「でも、気持ち悪いかもって思っちゃったんだよな。何を信じたらいいのか分からなくなっちゃったんだよな」
「でもでも、たくさん考えて、やっと気付いたんだよな。メタルもキノコも……」
『それ』は、はにかみながら言った。
「『気持ち悪い』ところが、好きなんだよな」
「口じゃ言い表せないよな、こんな感覚。実際体験しないと分かんないよな。
だから、こんな事をしてくれたんだよな」
小さく肩を震わせ、もう一度、輝子の頭に手を添える。
「本当に、本当に……よくやってくれた」
そう言いながら、優しく、優しく、輝子の頭を撫でた。
「じゃあ、こんなところで寝てる訳にはいかないよな」
『それ』は輝子を撫でるのを止めると、不意に頭を掴んで持ち上げ……
「起きろ!!」
思い切り、ステージに叩きつけた。
「起きろ!起きろよ!!」
がつん、がつんと音が響く。
額の肉が裂け、血が流れる。
「何の為にここに来た?ここでグースカ寝る為か?違うだろ!?」
「本当に裏切り者になる気か!?お前が好きなものの為に闘わなきゃいけないんだろ!?」
「おい星輝子、どうしようもなく気持ち悪い星輝子、お前がみんなに見せつけるんだろ!?
メタルの気持ち悪さを、その良さを!!お前が!!」
「なぁ、さっさと起きろォ!!」
ガツン、と一際大きく鈍い音が響いた時。
彼女は目を開けた。
隣を見た。
ぼんやりと陽炎がゆらゆらしていた。
自分の手にはマイクが握られていて、観客が自分を見ていた。
それで十分だった。
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