47: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:25:15.56 ID:Sev9O2YP0
彼女は立ち上がった。
倒れた時に打ったのか、鼻血が出ていた。
手の甲で血を拭う。当然綺麗に拭き取れる筈もなく、顔に薄く血のメイクが広がった。
彼女は、大きく息を吸った。
演奏は既に止まっている。なのに彼女は独り唄い出した。
耳を劈くような大声で。鼓膜と魂を震わせる大声で。
怯える者がいた。呆れて帰る者がいた。
だが、少なからず、興奮で震える者がいた。
地獄の果てまで届くような咆哮。
魂を燃やすような情熱。
この世の暗がりにいる、全てのぼっちに届くような、輝き。
誰にも寄りかかれない人がいた。彼は独りだった。
誰にも話せない悩みを持っていた人がいた。彼女は独りだった。
どこにいても、何をしても、暗くなってしまう人がいた。その人も、独りだった。
彼らは、いつも苦笑いをしていた。人に合わせて作り笑いをしていた。
それはどうしてもぎこちなくて、どうしてもちゃんと合わせる事ができなくて、
どんなに頑張っても、ずっと独りぼっちだった。
彼らはこの場で、誰よりも自然に笑っていた。
熱帯夜のように暑苦しく、蝉の鳴き声のように喧しい。
『真夏』のように気持ち悪い彼女を、美しいと思える彼らは──
おそらく、この上なく幸福だ。
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