45: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 01:23:26.82 ID:Sev9O2YP0
暫しの間唖然としていたスタッフが我に返る。
これ以上好きにさせてはならない。そう思い、スタッフは彼女に覆い被さるように突っ込んだ。
輝子はスタッフと揉みあった。絶対に取られまいと、マイクを胸に抱えた。
やがてなかなか彼女を止められないスタッフは痺れを切らし、苛立ちのまま思い切り彼女を突き飛ばした。
彼女は足をもつれさせ、そのまま倒れる。
受け身。
取れない。
胸に強くマイクを抱えていたから、両手が使えなかった。
そのまま彼女は、顔面からステージに叩きつけられた。
嫌な音が鳴った。
客席から悲鳴が上がった。
スタッフもたじろぎ、数歩下がった。
呆然と全員が彼女を見つめたまま数秒が経ち、曲が終わった。
あれほどうるさかった会場が静まり返った。
輝子はピクリとも動かなかった。
死んだのか?そう思えるほど、静かだった。蝉の声が響くほど、静かだった。
時刻は午後2時、一番暑い時刻。
豹変した彼女の薄気味悪さと突然の事故に、その場の人々は肝が冷える思いだったが
その日その時は、確かにとてつもなく暑かった。
陽炎がゆらゆらゆれるほど、暑かった。
陽炎が、人の形を取った。
『彼女』の姿を形取った。
「やぁ、『星輝子』」
『それ』が倒れ伏す輝子の傍らにしゃがみ込んだ。
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