7: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:43:40.94 ID:nm7zvJuf0
「そうだ。いいことあったよ、ひとつだけ」
「え? もしかして姉がアイドルで良かったこと?」
「うん。ライブとか、関係者席に呼んでもらえるんだ」
またしばらく徳田さんは押し黙った。そして口を開く。
「行ったこと、あるんだ」
8: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:44:21.69 ID:nm7zvJuf0
「高山君は、まつりちゃんが好きなんだ」
「え?」
誰が好きかと聞かれたので、まつり姫と答えてその理由を話したのだが、徳田さんはなぜだか不満そうに、頬を膨らましながらそう言う。
そして教室から小走りに出て行った。
「えっと……なにか悪いこと言ったかな……」
9: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:45:13.42 ID:nm7zvJuf0
「はいほー! みんな、おはようなのです」
劇場に徳川まつりが機嫌良く入ってくると、同僚であるアイドル達も笑顔で彼女を迎える。
「まつりさん、今日は随分と機嫌がいいみたいですな〜。これはなにかあったに違いありませんぞ〜」
「ほ、さすが美也ちゃん。実は昨日、姫はとってもいいことがあったのです」
10: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:46:18.01 ID:nm7zvJuf0
「……」
昨日と同じく、放課後になると徳田さんは高山少年のクラスへとやって来た。
が、特に何も言わずに黙っている。
「あの……」
11: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:46:52.93 ID:nm7zvJuf0
髪型を少し変えているということは、着こなしも……
「制服、ちょっと変えた?」
「あ、わかっちゃう? えへへへへ。高山君、私のことよく見てるよね」
実際には、はっきりと気づいたわけではない。
ただパターンとして、そういうことが多いのでそうではないかと聞いただけだが、彼女が嬉しそうにしているので、これも如才なく彼はその件について黙っておいた。
12: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:47:49.86 ID:nm7zvJuf0
彼の姉は別段、気むずかしい女の子というわけではない。
しかし自身の容姿にあまり自信を持っておらず、だがアイドル志望ということもありファッションや雰囲気作りというものには敏感だ。
なるべく気づいてあげ、そして良いと思えばそう伝えるのが彼女を喜ばせる一番の方途なのだ。そして気づいて欲しい時に姉がどう接してくるのかを、彼はよくわかっている。
「じゃあね。高山君」
13: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:48:34.55 ID:nm7zvJuf0
「わかった。じゃあ聞くけど、高山君はお姉さんにアイドルをやめて欲しくはないの?」
「え?」
落胆しながらの徳田さんの質問は、少し意外なものだった。
そんなことは考えたこともない。
姉がアイドルとして有名になって、周囲から質問されることが多くなっても、そんなことを聞いてきた人はいなかった。
14: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:49:27.49 ID:nm7zvJuf0
帰宅中、高山少年は今日のあの徳田さんの言動について考えていた。
あの時彼女は、あきらかに自分のこととして「迷惑だ」と言っていた。
もしかして姉の言う『あの子』が、徳田さんなのだろうか……
帰宅すると、彼はその疑問を姉にぶつけてみる。
15: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:50:08.58 ID:nm7zvJuf0
「ご、ごめんごめん。あのさ、俺の学校に姉ちゃんのファンの娘がいるんだけどさ、なんか……それっぽいこと言ってたからそれで」
「それっぽいこと、って自分が私の言うあの子だ、って?」
いや、徳田さんはそうは言ってはいなかった。
「そうじゃないけど、姉ちゃんの言ってたあの子の話をしたら、そんなの昔の約束だとか迷惑だ、とか言ってたから」
紗代子は少し、いやかなり興味を惹かれたようだ。
16: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:50:44.56 ID:nm7zvJuf0
翌日。
事務所で思いっきり突っ伏しているまつりを見て、朋花は小首をかしげる。
「どうしたんですか〜? まつりさんは」
「それがですね〜。昨日あれからまつりさんは、妹さんを問い詰めたそうなんですよ〜」
17: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:51:22.47 ID:nm7zvJuf0
翌日、高山少年は初めて自分から隣のクラスへ行った。
「徳田さん、いるかな?」
とりあえず近くにいた生徒に声をかける。
「徳田……? いやそれ、もしかして徳……」
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