25: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:57:09.11 ID:nm7zvJuf0
「さて、私の名前はなんでしょう?」
「え?」
そんなのわかるわけ……そう言いかけて、彼は口を閉じる。
徳田さんは、いや徳田さんだと思っていた少女の目は真剣だった。
真剣で、それでいてすがるような目をしていた。
26: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:57:49.44 ID:nm7zvJuf0
「もしもし? 紗代子ちゃん?」
「はい。どうかしたんですか、まつりさん」
「今、紗代子ちゃんはお家にいるのですか?」
「ええ」
27: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:58:34.35 ID:nm7zvJuf0
「遊園地のパレードでお姫様を見て、憧れて……なるほど」
「子供の頃、ね。それでまつりちゃんが『お姉ちゃん、あんなお姫様になりたいんだけどなれるかな』って言うから、私もお姉ちゃんならぜったいなれるし、そうなったら嬉しい……って」
憧れのアイドルのルーツを、その場にいた身内から聞き高山少年は少しばかりの感動と、納得を得た。
徳田さん……いや徳川さんの言っていた「そんなの昔のことじゃない」というのは、そういう意味だったのだ。
28: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:59:15.22 ID:nm7zvJuf0
「え?」
「夢を、こわしちゃったかな? まつりちゃんのファンなのに」
「そんなことないよ。前にも言ったけど、僕だってまつり姫が本当のお姫様だって思ってたわけじゃないから」
そう、それは本当だ。彼はアイドル徳川まつりのファンで、彼女のお姫様のようなところが好きだ。
しかしまあ、だからと言ってそんなつましい努力をしてお姫様みたいになったとは思っていなかったが。
29: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:59:54.90 ID:nm7zvJuf0
「あの子の存在が姉ちゃんの背中を押した、一番の要因だとは思うよ。大きなきったかけだった、ってね。でも……」
「? なに?」
「そもそも姉ちゃんは、アイドルが好きで憧れていたんだ。そこにあのことの約束が加わった。でも、そもそもアイドルになりたかったんだよ」
徳川さんは、ちょっと思い当たることがある様子だった。その証拠に、彼女は虚空に目を向け少し頷いていた。
「姉ちゃんにとって、あの子との約束は大きな目標のひとつではあると思うよ。でも、逆に言えば目標のひとつでしかない」
30: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 14:00:31.15 ID:nm7zvJuf0
「ライブに呼んでもらえる……んだったよね」
「いや、そうじゃなくてさ」
それでも少し逡巡してから、彼は言った。
「徳川さんみたいな子と、知り合うきっかけになったから」
少しだけまつり姫に似た瞳が少し大きくなり、その後彼女は微笑んだ。
31: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 14:01:08.08 ID:nm7zvJuf0
「姫のファンの子なのでしたか。サインはお安いご用なのです」
一同は場をリビングに移していた。
改めて紗代子はお茶の用意をし、まつり姫はニコニコとサインに応じ、徳川さんは少し不満げにそっぽを向いていた。
「あなた、まつりさんのファンだったの? そんなの一度も言わなかったじゃない」
32: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 14:01:46.92 ID:nm7zvJuf0
「それでは失礼するのです。色々とありがとうなのです」
「またね、高山君」
右手を差し出す徳川さんに、高山少年はまつり姫の顔色をうかがってから、おずおずと手を伸ばし握手をした。
「握手ぐらいは、認めてあげるよ」
33: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 14:02:22.13 ID:nm7zvJuf0
「わかったから私は、あなた達を二人きりにしてあげたのに」
確かに姉は徳川さんが誰かわからないうちから、彼女に弟の部屋に行ってみるように進めたりしてくれていた。
「え? あ、あれってそういう……」
「わかるわよ。私のファンだって言う割には、あなたばっかり見てるんだもの。私は口実で、うちに来た目的はあなただったのよ」
どうやら彼は、自分が思っているほどには女の子の気持ちを理解できてはいなかったようだ。
34: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 14:03:21.25 ID:nm7zvJuf0
「なんですって〜? するとまつりさんの妹さんのお相手というのは、紗代子さんの弟さんだったというわけですか〜?」
「縁は異なものとは言いますけど、これはまたなんとも不思議な縁ですな〜」
翌日、妹さんのデートはどうなったのかを聞かれたまつりは、事の顛末を朋花と美也に説明したのだが、2人は予想以上に盛り上がりを見せる。
「それにしてもこれは良縁ですね〜。ではこれからまつりさんは、紗代子さんの義姉となるわけですね〜」
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