29: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2022/05/10(火) 13:59:54.90 ID:nm7zvJuf0
「あの子の存在が姉ちゃんの背中を押した、一番の要因だとは思うよ。大きなきったかけだった、ってね。でも……」
「? なに?」
「そもそも姉ちゃんは、アイドルが好きで憧れていたんだ。そこにあのことの約束が加わった。でも、そもそもアイドルになりたかったんだよ」
徳川さんは、ちょっと思い当たることがある様子だった。その証拠に、彼女は虚空に目を向け少し頷いていた。
「姉ちゃんにとって、あの子との約束は大きな目標のひとつではあると思うよ。でも、逆に言えば目標のひとつでしかない」
徳川さんが彼に目を向けた。
やはり可愛い、高山少年は少しドキドキとしながら続ける。
「まつり姫がそのパレードで徳川さんに聞いた時、まつり姫は徳川さんなら応援してくれる、ってわかってたんだと思うよ」
徳川さんは黙っていたけど、ちょっと嬉しそうな表情になったので彼は黙って続ける。
「お姫様を目指す、きっかけが欲しかったんじゃないのかな」
「なにそれ」
徳川さんは笑った。
確かに少し似ている。彼の憧れのアイドル、まつり姫に。
だけど少し違う。
まつり姫より――可愛いかも知れない。
「じゃあ私が悩んでたのって、ホント馬鹿みたいじゃない。私のせいで……って本気で思ってたのに」
口調は強いが、徳川さんはやはり心底嬉しそうにしている。
きっとずっと悩んでたんだろうな。
お姉さんが無理しているのは、自分のせいなんだ……と。
高山少年も、無理している姉を間近に見てきたのでわかる。身内の姉が辛そうのは、自分も苦しい。ましてそれが自分のせいだと思ったら……
「姉がアイドルって、大変だよね」
けれど徳川さんも、今は素直にそう言えるようだ。
そう、彼女と最初に話をするきっかけはそもそもそれだったのだ。
「でも、いいことも少しはあるよ」
高山少年も、少しだけ素直に……いや、正直になることにした。
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