佐々木「これがシュタインズ・ゲートの選択だよ」
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2:名無しNIPPER[sage sage]
2021/03/28(日) 21:00:35.28 ID:gYxSR/SRO
塾帰りで、辺りは真っ暗で、頭上を見上げるとキラキラとお星様が瞬いているような、そんな夜だった。人気のない静かな夜道に俺がチャリを押すカラカラとした音が響き、そして互いの靴底がジャリジャリと舗装路を踏みしめる音しか聞こえない。
佐々木はわりとお喋りな奴だが、俺がそう遠くない未来に遭遇するであろう何処かの機関に所属する無駄にハンサムな超能力者とは違い、時と場合に応じてちゃんと口を閉じる分別を弁えた良く出来た友人であった。
静かにそしてゆっくりと流れる時間は、俺の精神を落ち着かせ、寛ぎすら与えてくれる。
3:名無しNIPPER[sage saga]
2021/03/28(日) 21:03:01.21 ID:gYxSR/SRO
「あの、佐々木さん……?」
おずおずと声をかけると、佐々木は無言で白衣を脱いで鞄に仕舞い、また歩き始めた。
佐々木の言葉が本当ならついさっき世界は再構築されたらしいが、周辺を見渡しても何も変わったようには見えない。
4:名無しNIPPER[sage saga]
2021/03/28(日) 21:05:26.62 ID:gYxSR/SRO
「過去に干渉ってのはどういう意味だ?」
「そうだね。わかりやすく例えるならば」
佐々木は頭上に輝く星々を指差して語る。
5:名無しNIPPER[sage saga]
2021/03/28(日) 21:08:06.89 ID:gYxSR/SRO
「キョン。仮に世界が変わったとしたらそれは奇妙なんだ。たとえば夜が存在しない世界に変わったとして、いきなり昼となり周囲が明るくなったことにキミは驚くかも知れないが、その世界に住む者にとってはそれが常識で普通のことだ。そしてキミもまたそれを当然として受け入れられなければおかしい」
もしもそんなヘンテコな世界になったとしたら、たしかにそれを異常と認識するよりもそれを普通のことと受け入れられたほうが精神衛生上良さそうだとは思うが、待ってくれ。
「本当に記憶にないのか?」
6:名無しNIPPER[sage saga]
2021/03/28(日) 21:10:07.00 ID:gYxSR/SRO
「安心したまえ。キミが世界の再構築に際して違和感を覚えていないということは、世界の根幹は大きく変わってはいないのだろう。恐らく、変わったのは僕らの周辺だけの限定的なものと推察する。さて、それは何か」
何かと言われても特にこれと言って変化は感じられない。塾終わりに帰路を共にして、今に至るその流れに変化があるとは思えない。
「おや? そう言えば、ここに来るまでの道中、僕はキミと手を繋いでいたんだけど、そのことについては記憶にないのかい?」
7:名無しNIPPER[sage saga]
2021/03/28(日) 21:11:47.99 ID:gYxSR/SRO
「やれやれ。付き合ってもうしばらく経つというのに、キミは変わらず照れ屋のままだね。まあ、そんなところもキミの魅力だが」
まじまじと佐々木を見る。今なんと言った?
「なんだいキョン。こんなところでじっと見つめるなんて。そういうことは時と場所を」
8:名無しNIPPER[sage saga]
2021/03/28(日) 21:13:52.89 ID:gYxSR/SRO
「キョン。キミは嬉しくないのかい?」
嬉しいか嬉しくないかと問われれば微妙なところだ。佐々木とは気が合うし、良い奴だとは思う。しかし、ではいきなり付き合えるかと言えば話は別で、そもそもこちらがそう思ったとしても佐々木は恋愛感情など精神病の一種だと切り捨てて、取りあってくれないとばかり思っていて、つまり、だから、俺は。
「混乱しているようだね。とはいえ、その態度から察するに元の世界においてもキミは僕のことを憎からず思っていてくれたらしい。ようするにその世界では僕らの関係が進展するきっかけがなかったのだろう。そしてそのきっかけを、未来の僕がくれたわけだ」
9:名無しNIPPER[sage saga]
2021/03/28(日) 21:16:16.70 ID:gYxSR/SRO
「何を謝る必要がある? 欲しいものを手に入れるために手を伸ばすのは当然のことだ。僕は手を伸ばして、キミは手中に収まった。ただそれだけのことさ。無論、キミのほうから手を伸ばして欲しかったとは思うけどね」
慰めるのかトドメを刺すのかどっちなんだ。
「なんならせっかく記憶を失ったのだから、やり直してくれても構わないよ? 僕としてもそのほうが都合が良い。うん。そうするべきだ。そうしたまえ、キョン」
10:名無しNIPPER[sage saga]
2021/03/28(日) 21:18:10.20 ID:gYxSR/SRO
「棚からぼた餅か。ぼた餅呼ばわりは癪だけど、お膳立てされようがなんだろうが、悪くなる前に美味しく食べて欲しいものだ」
そりゃあ俺だってすぐに食っちまいたいさ。
ただこの状況が気に食わない。まるで据え膳に毒を盛られているような、そんな気分だ。
11:名無しNIPPER[sage saga]
2021/03/28(日) 21:20:57.79 ID:gYxSR/SRO
「悪かったな、怖がらせて」
妹が赤ん坊だった頃にそうしたように、背中を撫でたり叩いたりして安心感を与える。
佐々木はくすぐったそうにくくくっと笑い。
12:名無しNIPPER[sage saga]
2021/03/28(日) 21:22:44.52 ID:gYxSR/SRO
「やれやれ。残念ながら僕には世界の支配構造を打ち砕くことは出来なかったらしい」
「全部お前のでっち上げだったんだな?」
「ああ、そうとも。奇抜な言動でキミに興味を持たせさえすればあとはどうにでもなるという腹づもりだった。失敗したけれどね」
佐々木はちっとも悪びれた様子もなく、種明かしをした。そこまで開き直られると、こちらとしても憤りが霧散して行き場を失った。
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