16:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:10:00.26 ID:FQVp12gN0
そんな彼女の様子を誰より気づかっていたのが、側仕えのメイドだった。
ライラの日常に寄り添うようになってそれなりに年月が経つ。日々彼女の優しさ、暖かさ、好奇心など様々な魅力に触れてきた。仕える側にもかかわらず、むしろ自分の方がたくさんの幸せをもらえているようだとメイドは思っていた。それだけライラは素敵で、ライラは美しかった。
そんな折に訪れた縁談の話。
ライラは決して結婚を否定しないし、むしろ新たな出会いに興味すらある様子だった。それは父を安心させるに足る姿ではあったものの、真意はその限りではない。少しだけ儚さがにじむようになった彼女の横顔を、その理由を、父が気づくことはなかった。
17:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:10:51.05 ID:FQVp12gN0
V メッセージ・イン・ア・ボトル
この世は皆、おしなべて理不尽。それを愛せることが生きる秘訣。
18:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:11:32.83 ID:FQVp12gN0
* * * * *
「ずっと」や「きっと」は絶対じゃない。それを知るのが青春だ。 ―― そんなキャッチフレーズが昔どこかであったかもしれないが、何はともあれ現実は厳しいもの。きっとはきっと、とは限らない。
19:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:12:47.40 ID:FQVp12gN0
「佐藤さんと話し込んでいたみたいだけど、何か気になることはあった?」
別対応から戻ってきたプロデューサーと合流し、帰路につくライラ。今日のことを振り返る。
「いえ、アドバイスを頂いておりましただけですよー」
やっぱりとても魅力的な方でございますね。そうライラは続けた。
20:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:13:15.18 ID:FQVp12gN0
* * * * *
「やっぱりここよね」
21:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:14:24.16 ID:FQVp12gN0
W シンギン・イン・ザ・レイン
あいまいでも、まとまっていなくても、想いは口に出していいと思うんです。
22:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:15:13.24 ID:FQVp12gN0
* * * * *
相川千夏はそもそも後輩の面倒見が特別よいとか世話焼きとかいうわけではない。落ち着いた佇まいが魅力の、聡明で博識なオトナの女性だ。ただそうした堅いイメージに比せず、彼女を慕う後輩は多い。その理由はいろいろあるが、盟友・大槻唯の言葉を借りるのであれば「大切なタイミングを絶対にこぼさないヒト」だからだとか。その話を聞いて以来、ライラも頼もしい大人像として千夏を浮かべることがあった。
23:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:16:11.19 ID:FQVp12gN0
ライブの時間はあっという間だった。
いや、そう感じたライラ含め、会場の皆がステージ上のたった一人を包むパフォーマンスにのまれただけかもしれない。
ライラは圧倒された。張り詰めた空気、微かな息遣い、美しいシルエット。ゆるやかなせせらぎの音、微かな伴奏音。高く静かな音色が一つ。音色はやがて声だとわかる。無から有へ、悠から動へ。そして世界は開闢へ。
24:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:17:00.81 ID:FQVp12gN0
「お疲れ様。とっても素敵だったわね」
「ありがとう。そう言ってもらえると安心するわ」
ステージ終了後の楽屋。ラフな格好に戻りようやく一息つく千秋に、千夏から言葉が贈られる。「慌ただしいでしょうけど、できれば一声だけでも掛けておきたいから」ということで立ち寄ることにしたのだった。ライラも一緒に足を運んだ。
「お疲れ様でございました。とっても……とっても素敵でした」
25:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:18:44.81 ID:FQVp12gN0
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