ライラ「アイスクリームはスキですか」
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18:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:11:32.83 ID:FQVp12gN0

   * * * * *


「ずっと」や「きっと」は絶対じゃない。それを知るのが青春だ。 ―― そんなキャッチフレーズが昔どこかであったかもしれないが、何はともあれ現実は厳しいもの。きっとはきっと、とは限らない。

 月末、ライラが参加したミニライブはファンの暖かな拍手と共に無事閉幕となった。途中ミスした箇所もあったが、大きなトラブルはなく歌い踊り終えることができた。
 終了後の楽屋、プロデューサーはお疲れ様の言葉とともによかったところ、ミスしたところどちらにも触れた。ライラはこの時間が好きだった。よかったところは素直に喜び、ダメだったところはきちんと反省する、それが大事。できるだけ時間の経たないうちに。プロデューサーが常日頃から言っていることだけれど、実際に自分のこととして受け止めるととても嬉しいし、反省しなきゃということもよくわかる。
「細かな振り返り練習はまたするとして、先にみんなに挨拶をしておこう」
 プロデューサーが別スタッフとの応対のため離席する間に、促されるままに共演者やスタッフにお疲れ様でしたの挨拶に回る。中盤のミスについてもごめんなさいでした、と自ら拾いあげつつ。気にしないで、また頑張ろうね、そんな暖かな声を掛けてくれる周囲の仲間たち。優しい言葉にありがたさを感じるとともに、また頑張ろうと感じる。

「そうね。本当気をつけてよね」
 そんな中で、少し厳しい言葉が投げかけられることもあった。すぐ隣で踊っていた共演のアイドルだ。
「リハではできてたっていうけど、あなたはあの時だって少し怪しかったし。まだまだ怖いわよ。もっと必死でやって」
 みんなで演目を作ってるんだし。センターの人にもファンのみなさんにも失礼でしょ、などなど指摘は続いた。ライラはただただすみませんでしたと返すほかなかった。
 言い方がよいかはともかく、共演者として、あるいはアイドルの世界で生き抜く立場としてこうした反応が出るのは当然のことでもある。件の彼女にとっては毎日が戦場であり、毎ステージが命懸けなのだ。そういう子もいるし、むしろそういう子は少なくない。そんな子にとって、ライラのおおらかで一見どこか執着の見えない姿が苛立ちの要因となることは想像に難くない。許容できるミスの程度も人によるし、彼女の姿が間違いということもないのだ。
 頭を垂れながら、こだわりがあるって大切なことだしすごいことだ、とライラは感じていた。自分にはどうだろう。何があるだろう。

「おおらかさも時には罪深い、ってね」
 少し高めの声が話に割って入ってきた。
「そんなもんにしとこっか?」
 声の主は誰あろう、本日のステージのメインを張っていた「しゅがーはぁと」こと佐藤心だった。小言を放っていた少女も即座に立ち上がり、お疲れ様でした、ありがとうございました! と丁寧な一礼。ライラもあわててそれに倣う。
「ありがとね。一生懸命な言葉嬉しいぞ。また次、みんな頑張ろうね☆」
 二、三の会話とともにその場はお開きとなり、ライラはもう一度だけ挨拶をして離れた。

「ライラちゃんこっちおいで」
 自分の荷物のところに戻ろうとした彼女をしゅがーはぁとが呼び止めた。片付けに慌ただしい楽屋の人の波をぬって、手招きされる方へ向かう。
「改めて今日のことだけど」
「はい、すみませんでございました」
「うん、ごめんなさいの話はもうここまで」
 お辞儀をするライラを起きるよう促し、具体的な話に切り替える彼女。
「問題だったのはどこだっけ」
「えっと、三曲目のサビのところで……」
「オッケ。マネさん、楽譜プリーズ☆」
 練習で使っていた譜面と立ち回り表を開く。ライラの動きのところと譜面を照らし合わせる。
「ここね。リハでできていたんだから、物理的にはできるんだよね。たぶん拍の変わり方が難しいからひっかかるんだと思うの。三、で踏み出して遅れちゃうなら二の終わりに足を前に出す体勢になっておく方がいい。前の終わりから」
「は、はいです」
「やってみよ♪」
 しゅがーはぁと自らの手拍子のもと、ライラがステップを踏む。
「そうそう、半拍前から体勢だけ向き直っておいた方が入りやすいよね。覚えておくといいぞ☆」
 あとその方が緩急がついてより綺麗に見えるから、と。
 そのまま少し、しゅがーはぁと直々のアドバイスが続いた。しなやかな動きは簡単そうで難しい、魅せるポイントにもっと強弱をつけよう、などなど。
「今更終わったライブの動きをやり直し、って思ったかもしれないけど、その方がいいんだよね。それにこのへんは今後にも絶対大切なとこだから忘れずに、ね?」
「はい。ありがとうございましたです」
「うん、ライラちゃんも笑顔忘れないようにね」
 ウインクひとつ。そして軽く頭を撫でて笑顔をくれる彼女。普段の明るく軽妙な言動とは裏腹に、人一倍努力家で責任感がある、汗をかくことが似合う女性。ライラには一貫して端的で明快で後腐れのない言葉を選んで教えている節がある。それは彼女なりの愛情であり、同時に彼女からのリスペクトでもあるのだけれど、そのあたりが詳しく語られることはない。
「はぁとさん、やっぱり優しいでございますね」
 ライラのそんな返しを彼女はおもいっきり笑った。そして向き直る。
「頑張っている子を無闇に貶めていいハズないもん。どうせああやって言う人は言うから。アタシはそういうタイプじゃないだけ。だからこそ反省はすぐやって、改善点はすぐ確認して、何度でも歌って踊って、ってね♪」
 そうしてアタシたちは笑顔を見せなきゃ。スキになってもらうには、自分のスキも大事にしよう。
「それでこそアイドル、みんなの前でキラキラしてこそアイドルだぞ☆」
 そう語る彼女はひときわ美しかった。



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