19:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:12:47.40 ID:FQVp12gN0
「佐藤さんと話し込んでいたみたいだけど、何か気になることはあった?」
別対応から戻ってきたプロデューサーと合流し、帰路につくライラ。今日のことを振り返る。
「いえ、アドバイスを頂いておりましただけですよー」
やっぱりとても魅力的な方でございますね。そうライラは続けた。
「ならいいけど……対応が必要なら何でも言ってほしい。僕も動くから、ね」
「ありがとうございます、です」
優しい言葉が心にそっと触れるようだった。その後もしばらく雑談を続けたが、彼の気づかう様子がライラにも伝わってきた。思えばそれは今日のようにライブがあったりミスがあったりした場面に限らない。いつだって暖かで、それでいてキッチリしていて、細かな変化にも気づいてケアしてくれる。一緒に走ってくれる。
ふれあう人みんな少なからず魅力はあるし、たくさんの優しさに満ちている。今日のしゅがーはぁと然り、最近の相川千夏然り、学ぶことの多い昨今なのは言うまでもない。だけどその中でも、彼の言葉は少しだけ、少しだけ心の奥に届くような、そんな感覚がライラにはあった。
イチレンタクショウ。そんな言い回しがあると聞いた。彼のこうした姿を見ているとそういうことが浮かぶし、自然と笑みが浮かぶ。やっぱりプロデューサー殿は素敵だ、と再認識するライラ。そして、と。
「……」
少し俯いて、一呼吸して向き直る。
「……どうかした?」
「いえ、大丈夫でございますよ♪」
笑顔を見せられているだろうか。大丈夫。
「……ですが、プロデューサー殿」
「うん」
「今日の振り返り、しっかりお願いしますです」
わたくし、もっともっと前に進まなきゃいけませんです。いえ、進みたい、です。だから。
そう語る彼女の澄んだ瞳はひときわ美しかった。
「わかった。だけど背負い込みすぎないようにね。少しずつ、確実に。一緒に頑張ろう」
もっともっと、夢も希望も抱かせてあげたい。それはプロデューサーの切なる願いだった。
「前を向く人にしか見えない世界がある。渇望はその端緒。……だっけ」
そんなことを相川さんが言っていたなぁなどと思い返しつつ、プロデューサーは前を向いた。
情景とともに受け止める言葉にはより一層の意味がある。結果はどうあれ今日という日の経験はとても大切で、今だからこそ感じられることがきっとある。彼女に伝えられることは何か。教えてあげられることは何か。自責の念も強い彼女に負荷にならないように、だけどうまく教えてあげたいことがたくさんある。プロデューサーに求められることはここでの判断と舵取りだ。
「僕も負けていられないな」
そうつぶやきつつ、気合を入れ直す彼の姿があった。
その日の夜、ライラは少しだけ文字を書き認めた。だけど伝えたいことはうまくまとまらなかった。手紙は封をされることなく、机に戻された。
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