6:名無しNIPPER[saga]
2020/09/20(日) 13:34:47.83 ID:DMraZkfV0
そう、元はと言えば本人の不摂生が祟った結果であり、こればかりは誰のせいにも出来ないことではあったのだ。ただ、そんな現実は悔しさとは無関係で。
やりたかったことはまだまだ有った。むしろこれからだったと言っても良い。心待ちにしていたフィギュアも来週発売だ。次にライブ配信しようとしていたゲームも既に買ってしまっている。死んでいる場合では無いじゃないかと、それを社はここに来て思い出した。
社築はオタクの例に漏れず煩悩にまみれている。だが、その何がいけないというのか。悔いを残し過ぎて死んでしまった事実は冷静になればやはり受け入れがたい。
7:名無しNIPPER[saga]
2020/09/20(日) 13:41:08.50 ID:DMraZkfV0
モイラは言う。ごめんなさいと。微笑は崩さずに。人間の生と死は女神にとって日常でしかない。
「そうですか」
「生き返らせられません――私には」
8:名無しNIPPER[saga]
2020/09/20(日) 13:47:34.68 ID:DMraZkfV0
実はも何も尊敬と畏敬の念を抱いて然るべきであった相手が同僚であったのだという事実と、その女神と対等かつフレンドリーな関係を築いてしまっていた意味の分からなさに社は困惑を隠せない。
「すんません、率直な疑問なんですけどどうして俺なんかにそこまでやってくれるんですか? だって、俺なんかただの下等な人間じゃないですか」
「何言ってるんですか」
9:名無しNIPPER[saga]
2020/09/20(日) 13:56:22.05 ID:DMraZkfV0
「それで話を戻しますと。つまり、こんなところで死んでる場合じゃないんです、社さんは。いまさらスケジュールも配役も変更きかないので」
青年にとってそれはありがたい話、のはずだった。しかしなぜだろうか。社にはもはや、モイラの言っていることが極まった社畜の同調圧力にしか聞こえなくなってしまっていた。
「酷ぇハナシだ……」
10:名無しNIPPER[saga]
2020/09/20(日) 14:10:56.18 ID:DMraZkfV0
憂いの無い異世界転生が始まると決まってからの社は、その生来持つ慎重さを存分に発揮した。それは、ともすれば女神が引くほどに。
「魔剣所有者……これは無いな。剣が無いと一般人なのはウィークポイントがデカすぎる。魔術の素質……保留。どんくらい魔法が有用な世界か分からない以上、ここで判断はできない。すいません、モイラ様? 他にボーナス候補書いてある紙ってまだありません?」
「ええ!? まだ決まらないんですか!?」
11:名無しNIPPER[saga]
2020/09/20(日) 14:21:22.89 ID:DMraZkfV0
「なら自分で考えたら良いじゃないですか、社さん」
「それも考えましたよ、勿論。ただ、ボーナスの振れ幅がデカすぎてどこまでが許されてどこからが『無理だ。その願いは私の力を超えている』ってなるのかの境界がこんだけサンプルスキル閲覧してもいまいち明瞭としないんですよね、俺には」
面倒臭いゲーマーの筆頭は床に散乱したスキルカード群から目を離すことはなく妄言を続ける。
12:名無しNIPPER[saga]
2020/09/20(日) 14:28:53.41 ID:DMraZkfV0
言われてみれば、確かに二度目は通用しないような、システムの穴を突くような内容ではあったか、と社は独り言ちる。
「え? でもモイラ様、ここに『火竜使役』ってスキルカード有りますよ? これ使役能力だけ……んな訳ないんですよね?」
「ちゃんとモンスター本体も着いて来ますよ。当たり前じゃないですか」
13:名無しNIPPER[saga]
2020/09/20(日) 14:39:36.59 ID:DMraZkfV0
「社さんがどんな都合の良いことを考えていらっしゃるのかは知りませんが。ただ、よくよく考えないと無能力者で終わりますよ、それ」
「は? どゆこと?」
「知性の無いモンスターならともかく、知性も理性もあるものがおいそれと召喚に応じるとは思えません。その場合、社さんがさきほど言った通り『英雄使役』能力は持っていても実際に召喚された英雄はいないといった事態になりかねません」
14:名無しNIPPER[saga]
2020/09/20(日) 14:46:47.30 ID:DMraZkfV0
「そこまで言います?」
「言いますよ。ついでに言っちまうと、この空間だってモイラ様がチョイスしたんでしょう? 俺がオタクだから。『分かって』っから。ぶっちゃけ『この〇ば』のオープニングリスペクト丸出しじゃないですか、ここ。この空間」
「だとしたら? なんなんです?」
15:名無しNIPPER[saga]
2020/09/21(月) 01:32:11.48 ID:7av7wDk10
目を開ける。眼下に広がるはずの新しい世界を、風を肺いっぱいに吸い込むよりも早く、彼は電光石火で土下座をしていた。
「「「やしきずゥゥゥッッッ!!!!」」」
「この度は、本当に! ほんッとうにィッ!! 申し訳ございませんでしたァァッッ!!!!」
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