10:名無しNIPPER[saga]
2020/09/20(日) 14:10:56.18 ID:DMraZkfV0
憂いの無い異世界転生が始まると決まってからの社は、その生来持つ慎重さを存分に発揮した。それは、ともすれば女神が引くほどに。
「魔剣所有者……これは無いな。剣が無いと一般人なのはウィークポイントがデカすぎる。魔術の素質……保留。どんくらい魔法が有用な世界か分からない以上、ここで判断はできない。すいません、モイラ様? 他にボーナス候補書いてある紙ってまだありません?」
「ええ!? まだ決まらないんですか!?」
一つだけ、好きな転生ボーナスを持って行って良いと。そう異世界転生のオヤクソクを社に告げてから既に三時間が経過している。過去にモイラが同様に手引きした英雄たちがそれぞれに選んできたボーナスの履歴一覧を矯めつ眇めつ、青年はしかし一向に決める様子がない。
「正直、どれもチートレベルだからどれ選んでも大丈夫なことは私が保証しますよ?」
女神の言葉に社は首を傾げうーんと唸った。
「じゃあ聞きますけどモイラ様、大軍に囲まれてもう戦うしかないってなった時に『経験値三倍』が今更何の役に立つって言うんですか?」
「ええ……まずその状況にしなきゃ良いんじゃないでしょうか……」
「ポカリ出す魔法しか使えない序盤の『二重詠唱』に何の意味があるって言うんですか?」
「それは……その……大器晩成型のスキルなので……」
わかってねえ、と青年は溜息を吐いた。
「俺は最初から最後まで楽が出来るスキルが良いんですよ。具体的にはスライム討伐から魔王戦まで一戦級で機能するような」
どこに出しても恥ずかしい、立派なオタクくんがそこにはふんぞり返っていた。
ただのわがままじゃねえか、と。そんな都合の良いスキルなんて無えよ、と。さっさと異世界行けよ、と。世界止めてるのも無料じゃねえんだぞ、と。言いたい事の九割九分をどうにかこうにか押し殺してモイラは体面を保ち続ける。その顔が引きつっている事に、スキル吟味に夢中な社は気付かない。
お陰でなんとか瀬戸際で今日もモイラは女神だった。
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