15:名無しNIPPER[saga]
2020/09/21(月) 01:32:11.48 ID:7av7wDk10
目を開ける。眼下に広がるはずの新しい世界を、風を肺いっぱいに吸い込むよりも早く、彼は電光石火で土下座をしていた。
「「「やしきずゥゥゥッッッ!!!!」」」
「この度は、本当に! ほんッとうにィッ!! 申し訳ございませんでしたァァッッ!!!!」
そう、その愛する家族の姿を認めるよりもなお早く。それは人間の限界速度に挑んでいるようだった。
とにかく謝罪だ。社築はこの状況を出来得る限り穏便に済ませる方法を他に知らなかった。誠心誠意の平身低頭、許されざる内容であることは分かり切っている。地面に頭を擦り付け妻に、そして子供たちに許しを請うに彼には何の躊躇もプライドも無かった。
普通ならばここまで哀れな男の姿を目の当たりにして、それ以上の追及はしないものなのかも知れない。普通ならば。
だが。彼の家族は普通ではない。
だから彼の後頭部は遠慮も戸惑いも無く踏み抜かれるし、「あ……え、そこまでする、母さん?」そこに体重だって掛けられる。
「ぶえっ、ド、ドーラ!? 口に砂利が!! 砂利が!!」
「知るか、戯けぇっ! 築、お前という男は性懲りも無く! いや、なお悪い! 今回は何だ! 体調管理を怠って死んだ、だと!? ふざけるでないわっ!!」
「ご、ごもっとも」
「釈明は有るか!? 無いな!! では、今度という今度はこの儂自ら引導を渡してくれるわ!!」
余りの逆上っぷりに本末転倒が甚だしい母親を、見かねて娘がその腰に抱き着いた。
「ちょ、助けに来たのにそのムーブはただのヤンデレや! ドーラ、落ち着いて! 落ち着いて!」
ドーラ、と呼ばれた女性はその唯一と言って良い泣き所に宥められ、ふうふうと肩で息を吐きながら少しづつではあるが平静を取り戻すことに成功したようだった。
足を社の後頭部からは離すことは無いまでもそこに掛ける力には若干の手心を加えつつ、ドーラは周囲を見回した。自分の腰に手を回し、こちらを心配そうな目で見上げる少女と、付かず離れずの場所でこちらを困り顔で見ている少年の姿を確認する。
二人は社とドーラの、それぞれ娘と息子である。
「儂が何よりも許せんのは、『異世界転生』じゃったか……こんな過酷な事に子供たちまでも巻き込んだことじゃ! どことも知らぬ世界で善行を成し遂げよ、などと。そもそもこのような事儂だけで良かったであろうに。事もあろうにひまわりと葛葉まで巻き込みおって貴様は!!」
「面目次第もございません!」
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