16:名無しNIPPER[saga]
2020/09/21(月) 01:41:15.81 ID:7av7wDk10
娘と息子は敏感に察する。あ、これのろけだ。喧嘩に見せかけたいつものやつが今日も始まったのだ、と。
「儂だけで良かったであろうに」。その言葉の真意を察せられないのは実に当人とその相方ばかりであり、このままでは周囲は共感性羞恥を一方的に味わう事になるのであった。
「儂がファイアードレイクの姿で召喚されてなくて幸いだったな! 完全に頭に血が上っておったから、貴様の頭蓋など今頃地面と同化しておったであろうに!」
「お慈悲に心より感謝しておりますッ!」
「何か言い分は有るか、築ッ!」
「御座いませんッ!!」
コミュニケーションと呼ぶにはそれは余りにも社とドーラ、両者の頭の位置が違い過ぎたが、それでもクレー射撃めいたものであるとは言え会話が成り立ち始めた。とりあえず父が開幕の事故死だけは免れたと判断した本間ひまわりはドーラの腰から手を放し、弟、葛葉の元へと歩き寄る。そこで初めてひまわりはここ、異世界のスタート地点が台地の縁であった事に気付かされた。
「うわあぁぁっ!」
歓声が上がった。崖の先に広がる世界はどこまでも広く、拡く。まるで視覚範囲が拡大していくような錯覚が少女を襲う。圧倒的な、スケールがそこには待っていた。
世界とは本来人間の手に余る代物である。その本質を伝えるような、ただただ単純な大きさの暴力が少年少女の網膜を焼く。
「ぁんだ、これ!! やべえぇぇっっ!!」
「ああ、やべぇな。コイツはちょっと日本に住んでちゃお目にかかれねーわ」
語彙力を失った姉に弟は口角を上げて同意を返す。続く青緑の平原は果てが無く、地平線は砂塵に霞む。右手側、遠く映るのは赤い森。どこからか滝の音が聞こえている。
「もはやARKじゃん、こんなの!!」
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