6:名無しNIPPER[saga]
2020/09/20(日) 13:34:47.83 ID:DMraZkfV0
そう、元はと言えば本人の不摂生が祟った結果であり、こればかりは誰のせいにも出来ないことではあったのだ。ただ、そんな現実は悔しさとは無関係で。
やりたかったことはまだまだ有った。むしろこれからだったと言っても良い。心待ちにしていたフィギュアも来週発売だ。次にライブ配信しようとしていたゲームも既に買ってしまっている。死んでいる場合では無いじゃないかと、それを社はここに来て思い出した。
社築はオタクの例に漏れず煩悩にまみれている。だが、その何がいけないというのか。悔いを残し過ぎて死んでしまった事実は冷静になればやはり受け入れがたい。
「……ただ、自業自得とは言え、それでもやっぱり悔しいですけどね」
「泣かないんですね、社さん」
女神の言う通り、こんな事態に遭ってなお涙が流れないことの方が社には不思議だった。大人になるときに覚え込まされた諦めは、涙腺から水分を根こそぎ奪い去ってしまっていたのだろうか。
「ま、当事者ならそんなモンでしょ」
「当事者なら、ですよそれ」
「かも知れません。アイツらなら泣くんじゃないすか。――俺の代わりに泣いてくれんだったら、それはちょっと嬉しいっすね」
……「彼ら」を遺して、先に来てしまったという無念すらも募る。雪のように、灰のようにそれは心に降り積もるものだった。
「嬉しいですか、本当に?」
「……分かりません」
異世界転生とは、決して明るい未来ばかりではない。そこには別れが頑として存在している事。そして物語の主人公たちのように手放しても未練の無い過去などでは、社築の場合は無かった。
――楽しかったのだ。
楽しくて、楽しすぎて、充実して、充実しすぎて。「だから」死んでしまった。
こんなに悔しくても、どんなに悔しくてもすら死の事実は消えない。
血を吐くように、懇願する。
「生き返れないんですか?」
自分には異世界転生なんか、要らなかった。それよりずっと生きていたかったと、社はここにようやく思い至った。
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