149: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:45:20.46 ID:CC20O+KU0
ちひろさんはにっこり笑い、「はい」と言った。
「え……どういうこと、ですか」
「しばらく、楓さんと二人三脚で、一緒に頑張っていきましょう、ってことです」
150: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:46:17.10 ID:CC20O+KU0
一週間後。
ちひろさんは約束どおり、うちにやってくる。
「今日からしばらくお世話になります。よろしくお願いしますね」
151: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:47:06.79 ID:CC20O+KU0
「じゃあ、私はここに」
ちひろさんはリビング脇の和室に、自分の荷物を置く。
必要最低限の着替えと、メイク用品一式、あと黒い袋。いわゆるデリケート用品。
152: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:47:38.58 ID:CC20O+KU0
ちひろさんは私の顔を見て、たしなめる。私の不安が表情に出ていたのだろうか、彼女に申し訳なく思う。
ああ、ほんと。ダメ。
なにを考えてもネガティブに。今の私は、アイドルである私の対極にいるようで、本当に情けなかった。
153: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:48:29.26 ID:CC20O+KU0
「そろそろ、投げ込みしましょうか」
足の痛みが退けてきた頃、社長さんから話を切り出された。
154: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:49:14.39 ID:CC20O+KU0
「そこを突っ込まれるのは、対外的には格好の餌ですしね」
「確かに」
「それにあれは事故です。ファンの皆さんが心配なのは高垣さんの体のことであって、どうしてそうなったのか、その事実についてはあまり興味はないでしょう。
事故の要因は私たち事務所スタッフの責任ですから」
155: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:49:41.52 ID:CC20O+KU0
ファンの皆様へ
先日のステージでの事故では、皆様に多大なご心配をおかけしました。
スタッフから発表があったとおり、足のねん挫とところどころ打ち付けたあざ程度で、大きな怪我をせずに済みました。
156: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:50:28.69 ID:CC20O+KU0
できあがったメッセージを、プロデューサーに見せる。すると。
「ちょっと楓さん。申し訳ないですけど、ここ、直してもらえますか」
157: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:51:00.36 ID:CC20O+KU0
私の勢いに、周りのスタッフが私を見る。彼らもどうしたらいいのか、手をこまねいている。
そこに、ちひろさんが入ってくる。彼女は私とプロデューサーの間に入り込み、こう言うのだった。
「楓さん! まず、社長室に行きましょう。ね?」
158: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:51:53.31 ID:CC20O+KU0
「うーん……では伺いますけど、今の状態で高垣さんは、ベストパフォーマンスを出せる、と言い切れますか?」
「……いえ」
「なら高垣さんご自身がよく分かると思いますけど。それは、ファンの皆さんに失礼だ、って」
「……」
159: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:52:42.56 ID:CC20O+KU0
ちひろさんは、続けて言う。
「今生活しているリズム、仕事をしているリズム、全体のリズムを大きく変えてしまうのはあまり好ましくない。そうおっしゃってました」
「リズム、ですか」
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