152: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:47:38.58 ID:CC20O+KU0
ちひろさんは私の顔を見て、たしなめる。私の不安が表情に出ていたのだろうか、彼女に申し訳なく思う。
ああ、ほんと。ダメ。
なにを考えてもネガティブに。今の私は、アイドルである私の対極にいるようで、本当に情けなかった。
「ひととおり荷物が片付いたら、引っ越し祝いになにか美味しいもの食べましょうね」
「引っ越し、祝い。ですか」
「ずいぶん軽めの引っ越し、ですけどね」
ちひろさんは笑う。
彼女がここまで笑えるようになるまで、どれほどの苦痛を味わったのだろう。今それを私が想像することは、果てしなく困難に思えた。
それでも。
誰かがいる、ということは、とても大きなもので。
ちひろさんが食事の支度をすれば、私が手伝いをしなければ、と気力を振り絞って動くことをするし。
後片付けも、彼女の労力に報いたいとなんとかやろうとするし。
気が付けば自分がなにかをしている、という状況が作り出されていた。
ひとりでは、とてもなにかをやろうという気持ちが湧かないのに、ちひろさんがこうしていることで、やらなければ、やろう、という環境ができあがっている。
昨日までのダメな私からあまり変わっていない気がするけれど、それでもなんとかやっている。
「ちひろさん」
リビングでくつろいでいるちひろさんに、キッチンから声をかける。
「はい」
「……ありがとうございます。いろいろと」
ちひろさんは嬉しそうに「まだ初日ですよ」と言った。
本当に彼女には、感謝しかない。
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