141: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/08/27(木) 12:30:20.53 ID:IcevcAFHO
私はここに残るかどうか迷った。残れば、「クドラク」を捕まえられるかもしれない。
でも、霧の中からは人の気配が消えていた。逃げられた?ううん、多分、動いてないんだ。霧が晴れるまで、待っているのかも……
それに、何より……魔王が心配だった。荒い息遣いが耳元で聞こえる。意識があるのかすら分からない。
医者?いや、魔族の彼を診てくれるとは思えない。ユングヴィ教団も味方になってくれそうもない。
142: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/08/27(木) 12:31:14.82 ID:IcevcAFHO
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「デボラさんっっ!!!」
ドアを叩くと、コボルトの男が怪訝そうに私を見下ろした。
143: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/08/27(木) 12:31:48.62 ID:IcevcAFHO
「これでよし……と。彼はうちの組の後見人なのさ。旦那とはダチでね。旦那がいなかったら、彼に惚れてたかもしれないねえ」
「それにしても、この魔法……」
「『時間遡行(アップストリーム)』さ。誰にでも使えるもんじゃないらしいけどね。でも、肉体は戻っても、失われた血と体力はそう簡単には戻らない。
144: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/08/27(木) 12:32:30.89 ID:IcevcAFHO
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部屋の明かりは煌々と付いている。クドラクが襲ってきた時に、すぐに分かるようにということだった。
薄闇の中でも、近い距離なら歪みがそこにあるのは見えた。まして明るい場所なら、それなりの違和感はあるだろう。クドラクが夜にしか現れない理由の一つが分かった気がした。
145: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/08/27(木) 12:33:26.21 ID:IcevcAFHO
「……なぜ、泣く」
146: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/08/27(木) 12:33:54.10 ID:IcevcAFHO
「えっ、あっ、うん……私こそ」
コホン、と魔王が咳払いをした。
「……それで、明日は、行くのか?」
147: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/08/27(木) 12:34:35.73 ID:IcevcAFHO
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翌朝。待ち合わせの広場に向かうと、既にランパードさんが待っていた。医者らしく、白装束を着ている。
「お待たせしました」
148: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/08/27(木) 12:35:19.72 ID:IcevcAFHO
「……え」
「ここで襲撃があってから数時間後だ。恐らくは恋人同士、どこかの連れ込み宿にでも行こうとしたんだろうが。夜が更けてから歩くのは自殺行為ってことだな」
「嘘っ、まさか……」
149: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/08/27(木) 12:36:12.48 ID:IcevcAFHO
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「何だお前らは」
衛士が怪訝そうに私たちを見る。ランパードさんが鞄から何かの巻物を取り出し、広げてみせた。
150: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/08/27(木) 12:37:05.11 ID:IcevcAFHO
5分ほどして、小柄な老人が衛士と共にやって来た。ランパードさんが跪くのを見て、私もそうした。この人が、エストラーダ候か。
「お会いできて光栄です、閣下」
「トリスの一級医術士とは、真か」
151: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/08/27(木) 12:38:05.50 ID:IcevcAFHO
「ファリス、トリスから医術士が来た。報償金の話を聞いたようだ。今日の具合は」
「気分は、そこまで悪くはありませんわ」
ふわり、と少女が笑った。多分、私より少し若い。随分と痩せてしまってるけど、貴族の女の子らしい気品のある美しさだ。
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