145: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/08/27(木) 12:33:26.21 ID:IcevcAFHO
「……なぜ、泣く」
かすれ声が聞こえた。魔王が、うっすらと目を開けている。
「……!!意識がっ」
「……ここは、どこだ」
「ワイルダ組。……デボラさんが、傷を治したの」
「……お前が連れてきた、のか」
私は無言で頷いた。魔王がフッと笑った。
「……すまなかったな」
「え」
「俺も、周囲への警戒を欠いていた。許せ、あれは俺の責任だ」
「違うっっ!!私が、お酒に酔って浮かれてたから……」
小さく彼が首を振る。
「いや……あそこで襲ってくるとは、思わなかった。想定が、甘過ぎた」
「え」
私は薬湯の存在を思い出した。グラスを口元に持っていくと、彼は一口飲んだ。
「……苦いな」
すぐに顔をしかめる。
「……確かに、お前は狙われている。が、周囲に人がいる所で、しかもまだ宵になる前に来るとは、考えてなかった」
「それって、どういう……」
「焦り、だろうな。正体が知られることへの……ただ、『霧』に入っても無闇矢鱈に暴れてはいなかった。あの危険性を知っていたか、あるいは直感で動かぬ方がいいと考えたか……」
魔王が私に微笑みかけた。……こんな顔で笑う彼を、初めて見た。
「ともあれ、救われたのは……俺の方だ。あそこで霧を張らなかったら……『アレ』を使わざるを得なかった」
「『アレ』?」
「俺の、本当の切り札だ。使えば、確実にクドラクは殺せる。
だが……俺だけじゃなく、お前も、いや周囲の無辜の人々も傷付ける。いや、殺しかねない。だから、助かった。ありがとう」
顔が熱くなるのを感じた。素直に感謝されるなんて……思ってなかったから。
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