54:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 18:57:29.00 ID:W5lmC8VA0
「アイドルは、楽しいです。
これほど夢中になれるものが私にあるとは、思いもしませんでした」
私の手を両手で握りながら、千夜ちゃんは私の目を見て続ける。
55:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 19:00:09.96 ID:W5lmC8VA0
――私は一体、千夜ちゃんの何を見ていたんだろう。
千夜ちゃんは、私が考えていたよりもずっと、自立していた。
依存していたのは私の方。
56:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 19:02:08.71 ID:W5lmC8VA0
描かずに消したもの。読まずに伏せたもの。
「もう一度……私にも見れるのかな?」
身体の内側が、ジワジワと熱くなっていく。
57:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 19:03:40.34 ID:W5lmC8VA0
「ありがとう、千夜ちゃん」
私は立ち上がった。
「いいえ、お嬢さま。何も」
58:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 19:05:35.55 ID:W5lmC8VA0
よく晴れた夜空に浮かぶ、大きな真ん丸の月。
何ちゃらムーンっていう、特別な満月の日なんだって、千夜ちゃんは教えてくれた。
59:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 19:07:59.88 ID:W5lmC8VA0
1809年、ラマルクは「獲得形質の遺伝説」を唱えた。
今日、キリンの首が長いのは、首の短いキリンが高い場所の葉っぱを食べようとして、首を伸ばす努力をしたからだと。
そして、その子孫達にもそれが受け継がれていった。
60:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 19:10:05.62 ID:W5lmC8VA0
「月夜の下の散歩も、たまには良いものでしょう?」
私が問いかけると、影は歩み寄りながら小さく会釈をした。
街灯の下に立ち、藍子ちゃんの姿がようやく私の前に浮かび上がる。
61:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 19:12:19.02 ID:W5lmC8VA0
「今日は藍子ちゃんに、私の自己紹介をしたいなと思ったの」
「自己紹介?」
「ロクに私のこと、教えてこなかったでしょう?」
62:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 19:14:51.87 ID:W5lmC8VA0
「あはっ♪ なぁんだ」
それならそうと言ってくれたらいいのに、と悪い癖でまた茶化してしまうと、藍子ちゃんは頬を掻いた。
「言いたくないご事情があったのかなぁ、って……それで、深入りしませんでした」
63:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 19:17:57.71 ID:W5lmC8VA0
言うべきかどうか、少しだけ迷ったけれど、私は打ち明けることにした。
自らの境遇を。
「魔法使い……私のプロデューサーと、約束させられたの。
もし私が、今度のオーディションに合格したら、アイドルを続けなさいってね」
64:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 19:20:37.86 ID:W5lmC8VA0
フレデリカちゃんは、子供達のために風船を取ってあげたいという夢が代々引き継がれたからだと言った。
一方で、進化論では首の長い動物は、生存競争のためにそのフォルムを変えてきたという。
どっちにしても、そうして強く望むことが、世代を超えていつしか形になるのなら――。
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