50:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 18:46:05.41 ID:W5lmC8VA0
ボンヤリと、独り言のように魔法使いは語り始めた。
「デカい車を買って、気立ての良い人を嫁さんにもらって、マイホームを手に入れて……
子供は、女の子と男の子の順で一人ずつ。仕事も適当に忙しすぎず、暇すぎず、細く長く続けていられたら、とかかな」
51:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 18:47:37.79 ID:W5lmC8VA0
他人任せの、偉そうな感じがしていた。
どことなく“やらされてる感”がして、ずっとこの言葉が気にくわなかった。
でも、そうだ――私が考えていたのは、もしかしたら使命じゃなくて。
52:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 18:50:31.12 ID:W5lmC8VA0
「千夜ちゃんっ」
玄関ドアをガチャンッ! と突進せんとばかりに叩き開ける。
ビックリして振り返った千夜ちゃんは、リビングのソファーに座っていた。
53:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 18:54:34.88 ID:W5lmC8VA0
「千夜ちゃん……アイドルは、楽しい?」
紫に煌めく千夜ちゃんの瞳が、少し大きくなった。
「ちゃんと答えて……私に、阿ることはしないで……」
54:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 18:57:29.00 ID:W5lmC8VA0
「アイドルは、楽しいです。
これほど夢中になれるものが私にあるとは、思いもしませんでした」
私の手を両手で握りながら、千夜ちゃんは私の目を見て続ける。
55:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 19:00:09.96 ID:W5lmC8VA0
――私は一体、千夜ちゃんの何を見ていたんだろう。
千夜ちゃんは、私が考えていたよりもずっと、自立していた。
依存していたのは私の方。
56:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 19:02:08.71 ID:W5lmC8VA0
描かずに消したもの。読まずに伏せたもの。
「もう一度……私にも見れるのかな?」
身体の内側が、ジワジワと熱くなっていく。
57:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 19:03:40.34 ID:W5lmC8VA0
「ありがとう、千夜ちゃん」
私は立ち上がった。
「いいえ、お嬢さま。何も」
58:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 19:05:35.55 ID:W5lmC8VA0
よく晴れた夜空に浮かぶ、大きな真ん丸の月。
何ちゃらムーンっていう、特別な満月の日なんだって、千夜ちゃんは教えてくれた。
59:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 19:07:59.88 ID:W5lmC8VA0
1809年、ラマルクは「獲得形質の遺伝説」を唱えた。
今日、キリンの首が長いのは、首の短いキリンが高い場所の葉っぱを食べようとして、首を伸ばす努力をしたからだと。
そして、その子孫達にもそれが受け継がれていった。
60:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 19:10:05.62 ID:W5lmC8VA0
「月夜の下の散歩も、たまには良いものでしょう?」
私が問いかけると、影は歩み寄りながら小さく会釈をした。
街灯の下に立ち、藍子ちゃんの姿がようやく私の前に浮かび上がる。
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