72:19/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:49:19.45 ID:ldlfMP+C0
寝間着の上に何かを羽織っただけのちとせの姿は、もはや主しか見えていない千夜の影にほとんど隠れている。部屋から一緒に出てきた人がかかりつけの医者だろう。
ちとせのような金髪の女性で、少なくとも日本人ではなさそうだ。古くからの知り合いなのだろうか。会釈をしてみると、事務的に返してくれた。
「お身体の具合はどうなのですか? ちとせお嬢さま!」
73:19/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:51:28.34 ID:ldlfMP+C0
「えっ」
「さっきは……その、私もどうかしていた」
忘れろとは手を重ね合わせたことだろうか。それともちらりと見えたちとせの寝姿だろうか。
74:19/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:52:16.18 ID:ldlfMP+C0
最後の微妙に聞き慣れたものじゃない響きの言葉が気になり、千夜の方を向いてみる。すると千夜もこちらを見ていたのか視線が合い、とっさに反対側へ向かれてしまった。
「……」
「……」
75: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:53:20.19 ID:ldlfMP+C0
20/27
頬を撫でていく風がすっかりと涼しいではなく寒いといえる時期になり、日が沈むのも早くなってきた。事務所の部屋の窓を閉め、ソファでくつろいでいたちとせと主人の世話をする千夜に改めて向き直る。
76:20/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:54:52.66 ID:ldlfMP+C0
「入れ込み過ぎじゃないですか、プロデューサーさん」
後日、定期報告に来ていたちひろがたしなめるように、プロデューサーへ忠告する。
ちとせはオフ、千夜は現場まではついていったのだが外せない別件があり、途中で千夜を残して事務所へ戻らざるを得なかった。
77:20/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:55:51.80 ID:ldlfMP+C0
ちとせとはまた違った笑顔を絶やさないちひろだが、その笑顔がただただ無性に不吉なものだと第六感が告げてくることがある。まさに今がそうだった。
「……でも、必要な時は見逃さないであげてくださいね。それについては私も目を瞑りますから」
「前より一緒に居られなくなったはずなのに、どこから見てるんですか……」
78: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:57:03.25 ID:ldlfMP+C0
21/27
駅前とはまた鉄板な待ち合わせ場所だが、他に良い場所も思い当たらなかったので千夜と意見は一致した。
79:21/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:58:12.56 ID:ldlfMP+C0
「いや、そうだよな……。格好を気にするよう口を酸っぱくしてたのも、とりあえず事務所に残ってた定番の帽子と眼鏡を渡しておいたのも、俺だ」
学生服で気付いてもよかったはずだが、違う印象の色が加わるだけでこうも千夜とは結び付かなくなるとは。普段のトレードマークともなっている黒い手袋が無いのも大きい。
ファンに私服姿まで知られていることはそうないだろうが、普段のカラーを変えることも提案しておいてある。いつも黒い装いに身を包ませている千夜が赤いカーディガンとは、さすがに他の色の服も持っていたようだ。
80:21/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 21:00:00.53 ID:ldlfMP+C0
褒められた人間のする表情にはとても見えない千夜だが、お世辞と取ったりしないだけマシにはなっていた。
いや、そうではない。自己評価の低い人ほど誉め言葉を素直に受け取れず、何か裏があるのだと勘繰る傾向にあると聞いた覚えがある。
千夜の場合は自己評価が低いどころか無だった。無の場合はどうなってしまうのだろう。
81:21/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 21:01:10.09 ID:ldlfMP+C0
ちょっとだけ歩くのが速くなった千夜の後をついていくと、途端に急ブレーキが掛かり危うくぶつかりそうになる。
何かを見つけたのか一点に集中された千夜の視線の先には、ゲームセンターのクレーンゲーム、の景品、の中にある千夜に教えた緑色の物体があった。似たような黒いのと桃色のまである。
「……ぴにゃこら太、実は気に入ってたの?」
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