73:19/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:51:28.34 ID:ldlfMP+C0
「えっ」
「さっきは……その、私もどうかしていた」
忘れろとは手を重ね合わせたことだろうか。それともちらりと見えたちとせの寝姿だろうか。
私も、と言っているのだから前者であろう。その前提で千夜の話に耳を傾け直す。
「一番おつらいのはお嬢さまだというのに……独りになってしまった時のことを思い出すなんて……」
「千夜はちとせが倒れる度に、その、思い出してたの?」
「いえ、そんなことは。久し振りだったから……油断していたのかもしれません」
「勝手にどこにも行かないってちとせも言ってたじゃないか。信じなきゃ」
「…………。世界は、そこまで綺麗に出来てなどいない」
5年前、12歳の少女がその身一つを残して全てを失い、今を生きている。
そんな彼女だからこその重みが含まれていた。否定できる材料は持ち合わせていない。
「お前もそれぐらいわかっている、のでしょう?」
「ん、俺?」
「その胸にしまってある物、それを見ていた時のお前は……。あの人たちといる時と、同じ顔をしていたから」
あの人たち。これは以前プロデューサーが受け持っていたアイドルたちのことだろう。
美嘉やアナスタシアたちと共演することになり、行動を共にしていくうちに何か聞いているのかもしれない。
そうでなくとも、千夜はプロデューサーがなぜそのアイドルたちから離れているのかは聞き及んでいる。
「……そうだな」
「お前とあの人たちとの間にある物語は深くは知りません。興味は……まあ、多少は」
「いつかみんなを紹介するよ。俺たちのあの部屋で」
「その前に、約束してください」
ちとせとも出会った頃から約束をしている。アイドル活動を続ける上での約束だが、3つ以上に増えることはないままだ。
「あの人たちに見せる顔を……いつか、私にまで向けることが無いように」
「……勝手に離れるなってこと?」
「どうしてわざわざ確認するために言い直すんでしょうね。ばか」
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