74:19/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:52:16.18 ID:ldlfMP+C0
最後の微妙に聞き慣れたものじゃない響きの言葉が気になり、千夜の方を向いてみる。すると千夜もこちらを見ていたのか視線が合い、とっさに反対側へ向かれてしまった。
「……」
「……」
なんだろうかこの空気は。助けてほしい、の真意もまだ千夜から聞けていないし、立ち去るにはまだ早い。
「あー、その……俺を呼んだのって、どういう?」
「察しなさい」
「無茶言うなあ……。うん、そうだな」
ちとせは休んでいる。眠っているのだろうか。すぐに良くなりそうな気配ではあるが、これから千夜だけレッスンに連れていくわけにもいかない。
ちひろなら気を利かせてトレーナーに事情を説明してくれていそうだが、あとでどちらにも謝らなくては。
それに、このまま事務所へ戻って千夜を独りにしてはいけない。今日ほど強く思ったことはなかった。
「じゃあ俺、代わりに買い出しにでも行ってくるよ。栄養が取れそうな食べ物とか欲しいもの全部、教えてくれ。その間に千夜はちとせを看病してるといい、ああでも眠ってるのかな……とにかくそばにいてやってくれ」
「それがお前の答えですか。……まあ、悪くはないです。たまには気が利くんですね」
「たまにはね。それが終わって、落ち着いたら事務所に戻るよ」
「欲しいもの、か。滋養のある食事……どうしよう」
渡してある携帯電話を開き、メールをリスト代わりにするつもりのようだ。
スマートフォンとは違いディスプレイをなぞっての操作ではないので、手袋を着用している千夜でもすぐに操作出来るのは意外な利点だった。
「もう行ってるぞ、店に着くまでには送ってくれ。途中でよく見掛けたあの店でいいよな?」
「ええ、そこで。頼みましたよ」
文章を打ち込んでいる時からもちょくちょく感じていた千夜の視線を背中で断ち切り、後ろ髪を引かれながらちとせの家を出る。
買い物をして戻ってくるまでの間、千夜から送られた救難信号を適切に受け取れているか、それだけを延々と自問自答していた。
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