79:21/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:58:12.56 ID:ldlfMP+C0
「いや、そうだよな……。格好を気にするよう口を酸っぱくしてたのも、とりあえず事務所に残ってた定番の帽子と眼鏡を渡しておいたのも、俺だ」
学生服で気付いてもよかったはずだが、違う印象の色が加わるだけでこうも千夜とは結び付かなくなるとは。普段のトレードマークともなっている黒い手袋が無いのも大きい。
ファンに私服姿まで知られていることはそうないだろうが、普段のカラーを変えることも提案しておいてある。いつも黒い装いに身を包ませている千夜が赤いカーディガンとは、さすがに他の色の服も持っていたようだ。
「……これでお前も共犯だ」
ちとせから黙って拝借したらしい。そのためのカバンか、事情が事情だけに千夜の苦悩が窺える。
せっかくなら学生服も別な物にしてほしかったが、家に戻っている時間も惜しまれる。
「さてと、どうしようか。ふらっと歩いて良さそうなもの探してみる? 俺は考えてきたけど、すぐに行く?」
全て委ねられてしまっては千夜が贈るという意義も薄れてしまいかねない。
時間をあまり掛けてもいられないが、一緒に悩む時間もまたちとせの喜ぶ顔を見るためには欠かせない要素だ。
「……許される限りは、探して歩きたい。お嬢さまに喜んでいただけるなら」
「そっか。それなら気ままにぶらつくか」
こうして千夜と2人、街中をうろついてみることになった。
「ちとせの趣味……えっと、美味しいものを食べることと月光浴、だったっけ」
事務所からも通知されているちとせのプロフィールには、そう書いてあったはずだ。
「美味しい食べ物は千夜の手料理でいいとして、月光浴に使えるプレゼントって何だろうな」
周囲にどんな店があるのか黙々と確認するばかりで中に入ろうとはしない千夜に、雑談も兼ねて何かを閃くきっかけになりそうなことを口にしてみる。
しかしプロデューサーの思惑は外れ、千夜は何を言い出すんだと言わんばかりに振り返った。
「私の料理でいい、とはどういう了見ですか」
「え? だって美味かったじゃないか」
「お前の舌が肥えていないのは伝わりました。……私が作るものよりも、もっと世の中にはお嬢さまのお気に召すような食べ物で溢れているでしょう」
「それだって、ちとせがそうしようと思えば毎日食べられるんじゃない? でもちとせは毎日千夜の作るご飯を食べてる。仕事の関係で外食する機会は増えたかもしれないけどさ」
「私も研鑽は積んできているつもりではいますが、それでも掛けられる手間や食材には限界があります」
「その限られた中でちとせを満足させられるってだけでも、俺には偉業だと思うよ。俺と違ってちとせの舌は肥えてるだろうし」
「……そう、ですか。私今、褒められてるんですね」
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