白雪千夜「私の魔法使い」
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76:20/27  ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:54:52.66 ID:ldlfMP+C0
「入れ込み過ぎじゃないですか、プロデューサーさん」

 後日、定期報告に来ていたちひろがたしなめるように、プロデューサーへ忠告する。

 ちとせはオフ、千夜は現場まではついていったのだが外せない別件があり、途中で千夜を残して事務所へ戻らざるを得なかった。

 仕事が終わり次第帰るようにとタクシー代を渡してあるが、気になって集中出来ていないのを咎められたのかもしれない。

「ちとせちゃんも千夜ちゃんも放っておけないのは分かります。ですが……最近また、お顔が怖くなってきましたよ」

 老けるとは言わないちひろの優しさが染み渡るが、そう言われたも同義である。

「う……そうですか。俺もまだまだですね」

「プロデューサーさんがあの子たちを心配しているように、あの子たちもプロデューサーさんのことをちゃんと見てるんですから」

「そうは言っても、難しいですよ」

「差し出がましくてすみません。でも、私にはプロデューサーさんの方が……心配です」

 去年のプロデューサーの顛末を誰よりも近くで見届けてきたちひろには、これから起こりうる事態をどうしても想定してしまうようだ。

 今度ばかりは逃げ出さない。そのつもりで頑張ってきたものの、何が起きるかは誰にもわからない。ちとせと千夜それぞれへの不安の種が尽きないのも事実である。

「まあ、そんなプロデューサーさんだからみんなも、迎えが来るのを待っててくれてるんでしょうね」

「ちひろさんも、俺のこと……」

「私はアシスタントですから。それでも出来ることは限られていますが」

 あくまでプロデューサーを支え、時に背中を押すくらいしか出来ない、とちひろは困ったように笑ってみせた。

「でも、もう2回もあの子たちの家に行ったことがあるなんてみんなが聞いたら、どうなるでしょう?」

「2回!? ……知ってたんですか」

 晩餐会に招待、いや招集されたことはちひろには黙っていた。ちとせか千夜、どちらかが吹き込んだことになる。ちとせだろうか?

「この前の件は仕方ないですが、オフの日に出掛けるのも頑なに断っていたプロデューサーさんが、ねぇ?」

「ちひろさん、顔が怖いです……。それにみんなとも結局、何度か連れ回されたじゃないですか」

「……あれ、そうでしたっけ? 私が覚えてる限りではそんなこと」

「ああああっと、俺の勘違いでした! なるべく断るようにしていきますから!」

 ちひろが不思議そうな顔をしたので、慌てて訂正する。妙な誤解を招いていないといいのだが。

「いえ、立場上そうしてくださいとしか私からも言えませんが……。どうしても必要な時間ってあると思うんです」

「……そう、ですね」

 晩餐会の夜を思い起こせば、2人との距離も近づけたように感じられた。ちとせの照れたような笑顔、千夜の手を振り返してくれた姿。あの夜でなければそうもいかなかっただろう。

「私が言いたいのは、出来れば均等にそういう時間を過ごしてあげてほしい。それだけなんです」

「? 入れ込むなって最初に言ってくれたのに?」

「ですから、特別扱いはタブーってことですよ。じゃないとみんなをお迎えした時、大変なことになりますので♪」



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