68:18/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:43:14.98 ID:ldlfMP+C0
「うん、だけどいつもちとせと一緒とは限らない。僕ちゃんとしてじゃない時のアイドル白雪――いった、ごめん! 口が滑った!?」
うっかり禁句を言ってしまい、ぐりぐりと胸元を押し潰される。ちょうど懐中時計がしまってあったところを押されたため威力は絶大だった。千夜も手に違和感を覚えたようだ。
「そう呼んでいいのはお嬢さまだけとあれほど……。それより、何を隠し持ってるんですか」
69:18/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:44:39.62 ID:ldlfMP+C0
先が長くないというのはちとせの自己判断でしかないとはいえ、未来は誰にもわからない。佳人薄命という言葉もある。か弱い身体で生きてきたちとせだからこそ感じる、迫りくる死への予感があるのかもしれない。
千夜には先が長くないということを隠している手前、話題運びとしては二重に失態を犯している。どうにか切り替えなくては。
「……お嬢さまは」
70: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:46:08.36 ID:ldlfMP+C0
19/27
悪い予感とはどうにも当たるように世界は構築されているのか、時間になっても事務所に訪れない2人を定期報告に来ていたちひろと待ち呆けていると、僅かな時間差でメールが2通届いた。
71:19/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:47:50.73 ID:ldlfMP+C0
タクシーを降りたプロデューサーはエントランスのインターホンで千夜にロックを解除してもらい、晩餐会のあった夜を思い出して土地勘の薄い建物を進む。
エレベーターで目的の階層に着くと、千夜の姿はなかった。部屋番号は覚えているし、2人で往復した記憶を遡れば迷わず真っ直ぐに辿り着いた。
72:19/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:49:19.45 ID:ldlfMP+C0
寝間着の上に何かを羽織っただけのちとせの姿は、もはや主しか見えていない千夜の影にほとんど隠れている。部屋から一緒に出てきた人がかかりつけの医者だろう。
ちとせのような金髪の女性で、少なくとも日本人ではなさそうだ。古くからの知り合いなのだろうか。会釈をしてみると、事務的に返してくれた。
「お身体の具合はどうなのですか? ちとせお嬢さま!」
73:19/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:51:28.34 ID:ldlfMP+C0
「えっ」
「さっきは……その、私もどうかしていた」
忘れろとは手を重ね合わせたことだろうか。それともちらりと見えたちとせの寝姿だろうか。
74:19/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:52:16.18 ID:ldlfMP+C0
最後の微妙に聞き慣れたものじゃない響きの言葉が気になり、千夜の方を向いてみる。すると千夜もこちらを見ていたのか視線が合い、とっさに反対側へ向かれてしまった。
「……」
「……」
75: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:53:20.19 ID:ldlfMP+C0
20/27
頬を撫でていく風がすっかりと涼しいではなく寒いといえる時期になり、日が沈むのも早くなってきた。事務所の部屋の窓を閉め、ソファでくつろいでいたちとせと主人の世話をする千夜に改めて向き直る。
76:20/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:54:52.66 ID:ldlfMP+C0
「入れ込み過ぎじゃないですか、プロデューサーさん」
後日、定期報告に来ていたちひろがたしなめるように、プロデューサーへ忠告する。
ちとせはオフ、千夜は現場まではついていったのだが外せない別件があり、途中で千夜を残して事務所へ戻らざるを得なかった。
77:20/27 ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:55:51.80 ID:ldlfMP+C0
ちとせとはまた違った笑顔を絶やさないちひろだが、その笑顔がただただ無性に不吉なものだと第六感が告げてくることがある。まさに今がそうだった。
「……でも、必要な時は見逃さないであげてくださいね。それについては私も目を瞑りますから」
「前より一緒に居られなくなったはずなのに、どこから見てるんですか……」
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