白雪千夜「私の魔法使い」
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69:18/27  ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:44:39.62 ID:ldlfMP+C0
 先が長くないというのはちとせの自己判断でしかないとはいえ、未来は誰にもわからない。佳人薄命という言葉もある。か弱い身体で生きてきたちとせだからこそ感じる、迫りくる死への予感があるのかもしれない。

 千夜には先が長くないということを隠している手前、話題運びとしては二重に失態を犯している。どうにか切り替えなくては。

「……お嬢さまは」

 気まずい空気を打ち破るように口を開いたのは、千夜だった。

「いずれどなたかとご結婚なさるとかは、考えていないのですか?」

 不安げながらもひどく真面目な千夜の質問にポカンとしているちとせ。

 プロデューサーは晩餐会の夜に自分が千夜と話したことを思い出す。家を継ぐ、という話から千夜も思い出したのだろう。

 黒埼家がどれほどの名家かは詳しく知らないが、千夜がいつも呼んでいる通りちとせは立派なお嬢様だ。

 容姿も家柄も揃っていると自負しても事実なので嫌味になり得ないちとせなら、引く手あまたに違いない。

 現代にもまだ政略結婚なんてあるのだろうか。そんなのんきなことを考えていると、

「くふっ、千夜ちゃ、ごめ……ふふ、あはははははは♪」

 耐えようとしても無駄だったらしく、敢え無くちとせダムが決壊した。

「……お嬢さま、そこまで笑わなくても……」

 何がおかしくて主人が自らのお腹を押さえて笑っているのか、千夜には合点がいっていないようだ。
 ひとしきり笑って息を整え、それでもまだこみ上げてくるものを押し込もうとしながら、ちとせはなんとか喋ろうとする。

「うん、でも、千夜ちゃ、かわ……、くくっ」

「かわ?」

「千夜ちゃん、可愛い! そんな捨てられそうな、子猫みたいな目されたら……あーん、もう1回見せて♪」

 そうしてされるがままになる千夜と、まさしく猫可愛がりするちとせ。もはや気まずさなどどこ吹く風だ。
 しばらく2人のじゃれ合いを見ていると、満足したのかちとせは動きを止めて静かに目を細めた。

「……どこにも行かないよ。千夜ちゃんが大事なものをたくさん見つけられるまでは、ずっと。ずーっとね」

 優しく囁くその声は、千夜から完全には不安を取り除かなかった。

「お嬢さま……」

「あ、私より先に結婚しちゃってもいいんだよ? 絶対祝福してあげるから、はいお終い♪」

 ちとせは本音とも冗談ともつかない調子のまま千夜を解放する。
 千夜は追いすがろうとするも、もうすぐレッスンが再開される頃合いらしくトレーナーが帰ってきていた。

 プロデューサーはそのままレッスンを見学することにし、2人のビジュアルレッスンの邪魔にならないよう眺めている。

 ちとせの演技が真に迫っていくほどに、先が長くないという告白もどうか演技であるように、そんなことを考えながら。






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