白雪千夜「私の魔法使い」
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70: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:46:08.36 ID:ldlfMP+C0
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 悪い予感とはどうにも当たるように世界は構築されているのか、時間になっても事務所に訪れない2人を定期報告に来ていたちひろと待ち呆けていると、僅かな時間差でメールが2通届いた。

「ちとせちゃんからですか?」

「そうみたいですね、えっと……うおっ、千夜からもだ」

 まずはちとせの方から確認する。今日は行けそうにない、という旨の謝罪が書いてある。
 これだけでも十分だというのに、千夜からのメールはプロデューサーの想像力を瞬時に掻き立てらせた。

「助けて……ほしい?」

 この6文字を千夜はどんな心境で送信したのか、ちとせは大丈夫なのか。考えるより先に身体が自分のすべき行動を取っていた。

「ちひろさん、俺行ってきます!」

「行くって、どこに向かわれるんですか!?」

「ちとせと千夜のいるところです!」

 書きかけだった企画書も定期報告に来てくれていたちひろも置き去りにして、急いで事務所を出てタクシーを拾う。運転手に行き先を聞かれ、ようやく2人がどこにいるのかを知らないことに気が付いた。

 自宅ならいいが、病院ともなればお手上げだ。とにかくちとせの家を目指し、その間にどこにいるのか聞けばいい。送り迎えに家まで上がっているおかげで自宅の場所はわかっている。

 運転手に道のりを手早く説明し、タクシーが動き出してから居場所の特定を試みる。電話でなくメールで連絡を寄越したのなら、メールで返すべきだろうか。

 ……そこで、ちとせ自身からメールが届いたことを思い出す。悪い方へと流されていっていたイメージがプラスとまではいかないにしろ、だいぶ緩和されてきた。

 冷えていた血の巡りに熱が戻ってきた気がして、落ち着いて居場所を尋ねる相手を選ぶ。自宅であればすぐに応対できるのは千夜だけだろう。

「……助けてほしい、か」

 千夜へメールを返してから、言葉の真意に目を向ける。

 ちとせにしかわからないほどの千夜の雰囲気の差があったように、千夜にだけわかるちとせの雰囲気の差があり、それが深刻なものだと勘付いてしまった、とか。

 長い間、共に生活をしている2人だからこそなせることもある。

 時間を置かずに千夜から返信が届く。タクシーが行き先を変更する必要はなさそうだ。

 到着するまでの間、懐から懐中時計を取り出して確認する。2本の針は、いつものように12時を告げたまま――動いていない。






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